
キャリア志望動機を考えた時に突如大量に表れるのが、「日本を技術立国にしたい」「技術力がある中小企業を支援したい」「企業再生をしたい」といった「企業成長・再生のお助けマン志望」の皆さんです。そしてそのアプローチとして、ファンド(しかもPEではなく公開株)や投資銀行を選び、将来の起業に繋げたいという人が非常に多いです。そしてこのような志望動機には無数の誤解と壮大な誤りの数々が含まれています。以下で解説しましょう。
投資銀行・資産運用・PEファンド志望者が抱きがちな5大誤解と思い込みとは?
慶応大学理工学部Nさんより質問
私は将来、自分で起業して中小企業の成長戦略や企業再生に特化したコンサルティング会社を設立したいと思っています。
日本は世界に通用する技術力を持った国です。
そうした技術力を持った中小企業が多い中、十分に自社の強みを生かした経営ができていない企業が多いと思います。
また資金難から苦しい経営を強いられている企業も多いと思います。
こうした企業に対して積極的にアプローチしているのがファンドだと考えています。
実際、ファンドがこうした企業の経営に対して深く関わっていたりもしますし、そういった意味でキャリアを積むという観点から、資産運用会社に入ってアナリストとして企業分析などを行いながらたくさんの企業を見ながら見識を深め、将来はファンドマネージャーになってというようなキャリアを積むのもありかと思っています。
しかしながら、投資銀行に入って企業の成長戦略や資金調達などに関わることにも魅力を感じています。
投資銀行の方がより深く企業経営などに携われると考えているので将来の起業を見据えた上では経験が生きるのではないかと思っています。
将来の起業を考えるとどちらが自分に合っているのか悩むところです。
講師による回答:ファンド・資産運用会社・投資銀行で「中小企業の技術力潜在正解化支援」をする機会などほぼ無い!
就活シーズンになると、これまで関連する勉強や活動をしたことがないのに、突然「中小企業の成長支援、再生を助けたい、、、」と言い出す人が多いのは、過去20年変わらない世の常です。
そして将来ビジョンと、入ろうとしている企業への志望動機に誤解が満ちているのも、同様です。でも仕方ないですよね、社会に出てやったことなければ、わかるわけないんですから。安心してください、以下に簡潔に解説します。
まず一つめに、おっしゃっている内容は、投資銀行の業務ではありません。大手投資銀行が扱う案件は中小企業の支援や再生ではなく、大企業案件が中心です。
バランスシート再生で負債リストラや優先株発行とかは投資銀行がやりますが、これも大手企業に対してのこと。小規模企業の技術力の潜在力を開花する云々は、どちらかといえばベンチャーキャピタルのほうが近いです。
2つめに、ファンドに関してですが、公開株の運用会社では、技術の評価にまで突っ込んだ分析は行われません。ないし行われても単なる思い込みか、正しく分析されても株価にまったく関係なかったりします。
これはひとえに、株価を決める市場コンセンサスレベルでは、ややこしい技術の潜在性への正しい評価などほぼ不可能だからです。
公開株のファンドマネジャーは、中小企業の支援などしませんし、再生も行いません。
1000歩譲って、中小型株のIPOの時に高いバリュエーションで株を買ってくれる、という局面もあるかもしれませんが、それは決してメインの仕事ではありません。
3つめに、PEファンドでの案件は、PEファンドの投資委員会が理解できないややこしい技術的な話は嫌い、リテールやらレストランやらサービスやらと、ビジネスの素人でも簡単に理解できる業態に投資されがちです。
間違っても「技術力のある埋もれた中小企業の潜在成長力をアンロックするためにファンドを志望します。。。」などといった、実態と乖離したキャリア選択をしないように気を付けましょう。
4つ目に最終的な起業に関してですが、企業に繋がるのはコンサルや投資ファンドでの経験ではなく、若くして起業した経験そのものか、起業したコミニュティに自分を置くことで受ける刺激です。
一般的にコンサルも投資銀行も、2020年代にもなると、昔のようなアントレプレナーシップ溢れる変わり者はあまり入らなくなりました。
逆に、昔銀行や総合商社を目指したようなエスタブリッシュメント・サラリーマン志向の人が増えているので、染まってしまわないよう気を付けましょう。
第五に、投資銀行かファンドかコンサルかどうかは、起業の準備にはあまり関係がありません。
勿論会計や企業価値評価の基礎、契約書作成などを学ぶことは大切な基本ですが、それらを全てマスターしたころにはすっかり社畜化している人も多いものなのです。
将来の起業が多いのは、第一に”将来の起業”などと悠長なことをいっておらず、すぐ起業してしまうタイプです。
コンサルや大手資産運用会社、投資銀行でMDまで行った人より、下っ端アナリストでとっととやめるか解雇されて、起業に転じて大化けしている人のほうが、企業家はよっぽど多いのです。
「投資銀行・ファンド・コンサルのどこへ進むか」ではなく、そもそも何が何でも解決したい問題や面白くて仕方ないサービス、商品が体を突き動かすかどうかのほうが、起業の成否をよっぽど分けるのだと心得ましょう。