
プライベートエクイティ業界で使われる様々な聞きなれない用語。業界内部に入ると当たり前の知識でも、面接の段階では知らない・聞きなれない単語のオンパレードになりかねません。ドライパウダーやドローダウン、Jカーブ効果やPEファンドの利回り・目標リターン、ヴィンテージやPEファンドの上場の是非など、プライベートエクイティ業界の基本を理解するための基本知識・重要用語の解説をまとめました。御参考ください。(写真はプライベートエクイティ転職対策テキストより抜粋)
プライベートエクイティの市場規模とは?
プライベートエクイティ市場規模は、投資額とファンドレイズ総額の双方で見られることが多い。
投資額に関しては、時折大型のグローバルファンドやリージョナルファンドが数千億規模の投資をすると、それだけで前年対比30%増とかになるので安直な数字比較はできない。
それでも件数、投資額ともに近年増加してきた。2020年のPE投資額は実に1.3兆円に達している。
これは長期間のブルマーケットで各PEファームでエグジットが好調だったため、次号ファンドレイズにも成功し、業界全体のドライパウダーが増えたことが一因である。
また、極端な金融緩和が続きレンダーのアグレッシブな貸し出し姿勢が、案件規模を押し上げる効果も果たしてきた。
詳しくは日本プライベートエクイティ協会のHPをご覧いただければ、御参考頂けるだろう。
ちなみに、GDPサイズに対してM&Aのボリューム、またPE投資のボリュームは欧米に比べてまだまだ小さいから成長市場だという議論は、もう20年くらい聞き続けている退屈なマーケティング文句だ。
そもそも欧米と日本、正確にはアングロサクソンとアジア文化圏ではM&Aやオーナーシップの売却に対する感覚が文化的に違う。
このGDPに対する%という数字比較は、“今後のPE市場の予想規模”の指標としては、引き続き無意味で的外れなものであり続けるだろう。
(PEファンド投資を売り込もうとする人以外はほぼ信じていない謎の対GDP%比較に、コロリと騙されてはいけないのである。)
PEファンドのドライパウダーとは?
ドライパウダーとは、直訳すると乾燥した粉であるが、これだとわけがわからない。
ドライパウダーとは要するに、資金調達した金額のうち、まだ投資に仕える金額の事を指す。
たとえば1000億円のファンド300億使っていたら、残り700億がドライパウダー概算なわけであるが、正確にはここから将来のマネジメントフィーや経費を引くので、実際の投資に使える金額はより少なくなる。
PEファンドの中には、同じ1000億のファンドでも既にほとんど投資してしまったファンドと、全く投資出来ておらずほとんどがドライパウダーで残っているファンドがある。
仮に優良投資案件を見つけられずにファンドのドローダウンが少なくて、ファンドの投資期間終了間際なのにまだドライパウダーがたっぷりある場合、何が起こるか?
そんなときはGPのガバナンスに厳しいLP(コミットメントサイズが大きいアンカーLPがその役割を果たすことが多い)が音頭を取って、ファンドサイズカットの憂き目に遭うこともある。
そのような屈辱的状況に陥らないよう、ファンドレイズするときは適切な規模で集めなければならない。
PE投資のドローダウンとは?
プライベートエクイティファンドのドローダウンといわれても、部外者にはわかりにくいかもしれない。
これも頻出の業界用語で、要するに既に使った資金のことを指す。
プライベートエクイティの資金調達は、あくまで“コミットメント”つまり、“要求されたらお金を出します”という契約の締結である。
つまり、仮にあなたが100億円のPE投資資金調達に成功したとしても、いきなりあなたの銀行口座に100億円振り込まれるわけではない。
毎年のマネジメントフィー(投資期間はコミットメントサイズの2%、その後は1%に段階的に落ちていくのが一般的だ。
ただファンドや投資家によって個々の条件が違うので、一概には言えない)を除けば、投資案件が見つかり実行が決まるたびに、そのコミットメントサイズに応じて投資額をプロラタで分けて、資金を各投資家から引き出すのである。
プライベートエクイティファンドのパフォーマンスと、Jカーブ効果とは?
鋭い方はお気づきであろう。PEファンド投資は、最初は損失がかさむのではないかと。
そう、投資案件を発掘するのに1年や2年かかることはザラなので、PEファンド投資後最初の1年や2年は、ファンドの価値は減少することが一般的である。
まだ投資したポートフォリオ企業もないのに、マネジメントフィーや経費ばかりひかれていくのだから、経験不足のLP投資家にとっては、最初は不安なものである。
四半期ごとのファンドの時価会計が報告されるので、最初の方は投資案件ゼロ、マネジメントフィーいくらいくら、というように、コストばかり嵩んでいくからだ。これを、PEファンド投資のJカーブと呼ぶ。
Jカーブというからには、一度沈んだ後に右上がりに上がるイメージだが、中にはJカーブどころか、一直線に下降していくファンドもあるのは言うまでもない。
PE投資は目標リターンがIRR25%だからこそ、その裏返しでダウンサイドリスクも当然大きいのである。
プライベートエクイティと利回り~目標リターンは?
さて、先ほどPE投資は目標リターンがIRR25%と書いたが、これをより詳しく解説しよう。
25%目標というのは一般的に、グロスリターン(つまりマネジメントフィーやキャリーなどのコストを引く前)であり、PE投資に求められるネットリターンは一般的にネットIRR20%と言われることが多い。
しかしながらこの低金利の御時世、IRRで10%、いや、優先リターンの8%でももらえたら、そう文句は言われないのが実情だ。
もちろん投資家の属性にもよるし、本気で20%リターンを上げることが重要な海外ファンドオブファンズも存在する。
しかし日本の銀行などにいたっては、「ファンドのリターンはなくても元本さえ帰ってきたらよくて、あとはLBOローンの仕事を回してくれたらそれでいい」と思っているLPグループもいることを、書き加えておこう。
プライベートエクイティ投資におけるヴィンテージとは?
さて、上記で論じたプライベートエクイティファンドの利回り比較は、同じ年にファンドレイズが完了した(=投資が開始された)PEファンド同志で比較するのが一般的である。
これは、そのファンドを運用するPEファームの実力を判断するには、市場環境が同じでないとフェアな比較にならないからだ。
例えば2000年当初の、エントリーバリュエーションがEBITDAの6倍で買えた時のファンドパフォーマンスと、今のように平気で10倍超えるような時代のファンドパフォーマンスを安直に比較できない。
またエグジットに関しても、IPOウィンドウが閉じていた2009年のパフォーマンスと、日銀がなんでもかんでも買い上げて、コロナショックで実体経済が大いに縮小しても株高は続くといった人口金融相場機関のエグジットパフォーマンスも、横並びで比較はできないのだ。
ワインがどの年にとれたのかを示す用語で“ヴィンテージ”があるが、プライベートエクイティファンドでも同様に“何年ヴィンテージのファンドか”という比較のされ方をするのである。
よって、同じ年にファンドレイズを終えて投資を始めるファンドの中で、特にファンドサイズや投資対象企業が似通っている場合は、LP投資家にどちらのほうが実力が高いのか、わかりやすい比較をされてしまうので、PEファンド間で「絶対負けられない戦い」が勃発するのだ。
プライベートエクイティファームは上場するのか?
どのヴィンテージのファンドでも安定的に目標リターンを達成したPEファンドは、ファンドレイズするごとにファンドサイズも巨大化する。
またパフォーマンスが良い限り、PEのみならず、他のオルタナティブアセットクラスのファンドレイズの道も開けてくる。
最初はバイアウトで始めたPEファンドが、やがて不動産、インフラ、セカンダリー、しまいにはヘッジファンドにも手を広げ、マルチアセットマネジャーとしてAUM(Assets Under Management)を成長させていくのだ。
そうすると次に見えてくるのが、そのPEファームの上場である。
基本的にLPの立場からすると、PEファンドの上場は諸々のコンフリクトが生じるので、やめてもらいたいことである。
しかしPEファームの創業者にとっては、自分が引退する時に持分の売却価格を最大化するためにも、上場のパスは持っておきたい。
さもなければ、まだたいしてお金ももっていない若手パートナーに安めの価格で譲ることになるか、既存LPの中でGPカンパニーも一部持ちたいというところに売るしか、GPカンパニーへの持ち分の現金化の道が狭められてしまうからだ。
プライベートエクイティファンドの上場が、メッチャ嫌われる2大理由とは?
*写真はプライベートエクイティ転職徹底対策テキストより抜粋