
金融機能で経済の新陳代謝を促進しながらも、経済成長に貢献しながら貧富の格差を是正できるのか、という問いに、Strong Career講師が回答します。
投資銀行志望動機~経済のパイを大きくしながら、格差を縮小する金融のあり方とは?
◆Question
私は金融に興味があり、あらゆる企業活動の基礎となる財務面を支え、さまざまなアプローチによって社会に貢献することに関心があります。
例えばM&Aや事業再生によって企業の建て直しを図り、その企業の社員の方々の生活を救うことは大変意義のある貢献であると考えます。
しかし、 M&Aによる事業の効率化や企業の再編によってリストラされる人々や衰退する競合企業などは経済的に恵まれない立場に置かれ、弱者と強者の溝が深まり、経済格差が広がってしまうような気がしてしまいます。
(そのため志望する際や将来のキャリアを考える際に悩むことがあります。)
私はこれまで発展途上国でのボランティア活動や一人旅で貧困や経済格差を目の当たりにしてきました。
そのために世界、あるいは国内での格差問題を是正し、多くの人々にチャンスを提供する手助けがしたいと考えています。
そのためには広い分野で金融の知識が役に立つと考えており、例えば国内外の支援団体で財務を担当することも大変有意義なものだと思います。
しかし、 金融業界に身をおきながら国内の経済を活性化することにも興味があり、上記のような格差を拡大させてしまうことよりも格差問題に有効に取り組んでいけるの であればぜひどのような貢献の仕方があるのか教えていただければと思います。
よろしくお願いします。
◆Answer 金融は資源の再配分と経済の新賃代謝促進の役割を果たせるが、格差是正は福祉の仕事
貴方の様な立派なお考えの大学生の方に、私は心から拍手を送りたいと思います。
金融から国内経済の活性化に関心があり、また個人的体験から世界の恵まれない人々の経済格差是正や機会の提供に取り組みたいという想いは、実は毎年、当セミナーに寄せられる典型的な御質問の一つです。
以下ではその金融が格差を拡大するかという問いと、上記ビジョンの融合方法について書かせていただきます。
まず、金融の全てではないですが、一部は確かに格差を拡大します。格差の拡大を許容しつつ全体のパイを大きくして最低賃金層が受け取る実質所得を上げるのがよいのか、所得を分配して格差を縮め、全体のパイは小さくなっても結果の平等を目指すのか、といった問いは、最終的には資本主義と社会主義といった社会の在り方に関する哲学に行きつきます。
そう申し上げたうえで重要なポイントを列挙しますと、まず第一に、金融が持つ”経済の新陳代謝促進”は、健全に機能するべきです。
そこで働く人にとっては過酷ではあってもリストラした方が、今後伸びる分野にお金を回せて、潰れる分野に継続的に資金と人材を投入しなくて済むという意味で経済全体にとっては必要な金融の機能です。
ただし第二に、貧富の格差の是正は資本主義と民主主義が続くために不可欠なので、富の再配分をする立場にある機関ないし富裕層の、お金の使い方が社会のクオリティを決定づけることになります。
どこかの誰かのようにお年玉企画で100万円ばらまく、といった小規模な道楽ではしょぼい限りです。
それこそ、ビルゲイツ氏のようにそれこそ世界のトイレ問題、教育格差是正、疫病根絶といった、公的な性格の強い分野に私財を大規模に投じる金持ちがその国にどれだけいるかが、格差拡大社会での社会全体の発展速度と方向性を決定づけるともいえるでしょう。
第三に、資本主義で鍛えたマネジメント能力を、マネジメントがしばしばかけているNPOなどに横展開するデュアル・キャリアも可能になってきています。
金融で金持ちをさらに稼がせる仕事に就きつつ、プライベートでは貧者の為に働きたいというのは、欧米のお金もちが巨額の寄付を慈善事業に回すのと似通った自然な欲求かもしれません。
例えば多くの投資銀行やプライベートエクイティファンドの上級幹部は、NPOのアドバイザリーボードに名を連ねて運営やファンドレイジングを手伝ったりしています。
また30そこそこで金融を引退し、そこで培ったノウハウとスキル、人脈で効率的な強いNPOを運営している人達もいます。彼は金融出身ではなくマイクロソフトの創業メンバーの一人でしたが、Room to Readを創ったジョンウッド等はその好例でしょう。
その際、金融で働く間にファンドレイジングのノウハウや資金提供者に対する説明責任、事業計画の立て方や資金の透明性のあり方等を金融の世界で学び、将来的に非営利組織で活かすというのが一つの考えうるケースだと思います。
現在、NPOでの問題の一つに、ノウハウの無い素人集団が寄付金を無駄に浪費している、と指摘されることも多いので、貴方のプロフェッショナルとしての成熟は日本のNPOを発展させるステップストーンになるかもしれません。
なお、昨今ではソーシャルファイナンスが脚光を浴びています。イギリスで活発になった概念ですが、貧困国でのマイクロファイナンスなど、金融で貧困対策に臨む分野も随分増えています。
そのリーディング企業として、慎氏率いるマイクロファイナンスの急成長企業、五常&カンパニーなど、貧困層の経済成長を後押しすることで、パイの増加と格差是正を実現する会社も出てきています。
「追求したい価値を満たす金融機関」の在り方が、問われる局面だと言えるでしょう。