
外資投資銀行で働く意義、やりがいについての質問に回答しました。金融商品を創ることは、社会貢献や企業のためになっているのか、という質問に、外資系金融機関で長年働く講師陣が回答します。
投資銀行での働きがい:『金融商品を作ることは社会貢献や企業の為になっているのか』
◆Question (京都大学大学院 経営管理大学院 CKさんより質問)
私は、現在大学院でPFIという社会資本(電力会社や道路などのインフラ)整備に民間資本を活用する方法について学んでいます。 というのも、フランスへ留学したときの経験から、人や社会を動かす仕組みについて勉強したいと思ったからです。
現在では、社会の仕組みについてだけではなく、証券化や金融商品の組成についても興味を持っています。
私は、金融商品を作ることが社会や企業のためにもなっているのではないか、という風に思っているのですが、実際に働いている方々がそういう気持ちを感じることはあるのでしょうか。
人によってまったく違うと思うのですが、特に金融機関で働くことが与えてくれる喜びややりがいについて、お話を聞いてみたいと思っています。
◆Answer (セミナー講師より回答)
金融の喜びと、金融商品が社会の役にたってるか、という御質問を頂きました。
金融の喜びは、私の個人的なものですが、第一に余剰資源を成長分野・資源を必要としている分野に振り分けられるという金融のそもそもの機能を大変有意義で面白いと感じる点です。
第二に、幅広く産業・企業を知り、トップマネジメントと直接対話し、人脈を築ける点です。
また第三に、お金を簡単に儲けられるからという人もいれば、他にも金融商品を開発するのが面白いという人もいますので、貴方が仰る通り、一概に金融の喜びも語ることはできないと思われます。
さて、金融商品が社会の役に立っているかという意味では、これもケースバイケースです。
どう見てもこんなデリバティブいらないだろ、とつっこみたくなる商品もありますし、このストラクチャードプロダクト、構造をややこしくしているだけで全然リスクヘッジになってないから、と突っ込みたくなる商品もあります。
ですが、異なるリスク許容レベルの投資家に、そのリスクに応じた異なるリターンアップサイドレベルの商品を提供するのは、リスクマネーをリスキーではあるが成長する可能性のある分野に誘導する上で重要な意義があると考えます。
肝心なのは、その異なるタイプ(リスク・リターンバランス)の市場が十分に発達することです。
残念ながら日本では豊富であった資金が、国策から国債に振り分けられるように制度設計されており、結果財政規律は崩壊し、国債を買う国内マネーに甘えてリスクマネー市場が発達せず、企業のリストラや再生が大幅に遅れたという経緯を持っています。
この点、近年のGPIF改革は遅すぎたとはいえ、評価できるでしょう。今後は民営化した郵貯の巨大マネーをどう振り分けるかが大きな課題となります。ゆうちょ銀行が自己勘定投資のPE部隊を立ち上げたのも、この流れで注目したい取り組みです。
従来の金融機関がファイナンスしない、異なるリスクリターンバランスの商品は世に必要
とにかく伝統的な銀行が貸してくれない企業、株式投資家が手を出さない企業でまだ伸びる余地、再生の余地のある企業に、様々なダウンサイドプロテクションやアップサイドオプションを組み合わせることで資金を融通することが、社会の役にたつ金融商品の特徴の一つと言えます。
端的に言えば、異なるリスクプロファイルの資金需要に、投資家が投資したくなるような条件とストラクチュアリングの金融商品を用意し、従来の金融市場では調達できなかった類の案件に新たな投資家からお金を引っ張ってくることができることなどは、金融商品開発の醍醐味の一つと言えるでしょう。
最近の事例では、2020年時点ではやや下火になりましたが、某米系投資銀行は太陽光関連の金融商品を資本市場でかなり売りさばき、大儲けしたのは記憶に新しいところです。
逆に言えば、エキゾチックで難解なストラクチャーで無知な投資家から高いフィーを搾り取るだけのためにしか思えない商品が、悪い金融商品と言う事ができるでしょう。
サブプライムローンもそうでしたが、投資家がよくわからないものを、いかにも打ち出の小槌であるかの説明をして売りつけるのが、典型的な悪い金融商品のパターンです。