プライベートエクイティの共同投資とセカンダリー投資に関するQA

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PEファンド転職対策テキスト御購入者の方から寄せられました質問に、執筆陣である現役のプライベートエクイティプロフェッショナルが回答します。プライベートエクイティのセカンダリー案件とはいくつかのレイヤーがあります。ファンドに対するLP持分のセカンダリー案件もあれば、PEファンドが保有する企業を、他のPEファンドに売却するセカンダリー案件も存在します。

本QAはプライベートエクイティファンド転職対策テキスト購入者の方から寄せられた質問に、執筆陣の現役PEプロフェッショナルが回答するものです。第一回はこちら。第二回はこちら

共同投資に関して

質問:P.52 ・「共同投資案件」の有無に関して、こちらは共同投資化によりLPに帰属するリターンが生じることで、GP帰属のリターンが単純に減少し、Hurdle Rate等の計算上の実現リターンの低減に繋がり、GP目線ではDis-incentive材料かと理解致しましたが、この点につき理解に齟齬御座いませんでしょうか。

又は、LPAにおいて何等か一定の調整が加えられるものでしょうか。調整が加えられるとすると、共同投資に参加できない他のLPの不利益が生じると思われますが、そちらには何等かケアは不要でしょうか

回答:共同投資はGPにとって、不利ではありません。そもそも共同投資は、ファンドで定められている一件当たりの投資額を上回る部分に限り、共同投資に回されるのが一般的です。ですので、ファンドサイズに関する部分のGP帰属リターンは減りません。

また優良な共同投資案件をLPに提供することで、次回以降のファンドレイズにも有利に繋がります。なお共同投資に参加できるかどうかは、LPの序列(アンカーインベスター、アドバイザリーボードメンバー、大口ないし昔からの関係)などにより変わってきます。共同投資案件に参加したいLPが、共同投資アロケーションより大きかった場合、アロケーションを巡りセンシティブな調整が必要になることもあります。

プライベートエクイティの共同投資はGPとLPどちらが持ち掛けるのか

質問:上記に加え、「1ファンド運用中に2件あれば合格、3件あれば万々歳というのが相場観」と記載頂いて御座いますが、記載ぶりからしてGPに共同投資化(をLPに持ち掛け、LPが採択/見送りを判断)の権限を有していると理解致しました。

P.58の記載を拝見するに、一定の共同投資枠をバイアウト実行前の段階から設定することが一般的と理解致しましたが、当該認識に齟齬御座いますでしょうか。

回答:共同投資部分は、GPがLPに持ち掛け、LPが個別に判断します。

質問:公開情報からではLPとの共同投資案件か否かを判断できないとの理解ですが、どのような場合としてGP側から持ち掛けることになりますでしょうか。

また、GPに対する”DD”の際に、前回までのファンドにおけるLPとの共同投資の有無及びその際のLPのリターン等を詳細に説明することが一般的でしょうか

回答:上述と重なりますが、ファンドが投資できる一件当たりの金額を上回った部分に関し、GP側から持ち掛けます。また、2点目のご質問内容への回答は、「共同投資を重視するLP投資家的」にとっては、一般的なDD質問となります。

GPがLPに提供するセカンダリー案件に関して

質問:P.54 ・LPAの条項として「ファンドのセカンダリー案件へのアクセス」が挙げられております。こちらは他LPによるファンド持分がセカンダリーで売却されることが企図される場合に、既存LPが優先的に買い取る権利を有することを意味しているのではないかと推察致しました。具体的にどのような状況で既存LPが買取を希望することになりますでしょうか。

回答:たとえば、LP側で方針が変わり、アジアのバイアウトから手を引く、みたいになった時、日本のバイアウト持分も売ることになります。

既存LPは当該ファンドの内容をよくわかっているので、額面上のバリュエーションよりも実際のエグジットリターンに高い自信を持つ既存LPは、買取を希望します。

また、LPの中には、セカンダリーファンドの運用会社が入っているケースもあり、そのような際は積極的に買い取りを検討します。なおバリュエーションはケースバイケースですが、簿価よりも高い金額で買われることもあります。LPAなどの条件はそのまま受け継がれます。

PE投資のレバレッジ水準トレンド

質問:P.56 ・個人的な感覚ですが、(EBITDA対比との理解です。シニアに限定されるともう少し低いかもしれませんが、当方は6xが限度と想定しておりました)8x以上が付く案件が御座いましたら(恐らく公開買付け案件ではなく、レバレッジが確認できないと思われますので)具体的なDeal Size、業種、レンダーの種別等、ご教示頂くことは可能でしょうか

1及び3のサンプル回答を綜合致しますと、大規模金融緩和等を背景に10xを超える案件が大半となってきた一方、コロナ禍によりEntry Valuationが大きく下がっているということになりますが、大きく下がった結果でも10xを超える案件が大半となったことをご示唆されているとの理解で宜しいでしょうか。

直近案件ですとCVC/資生堂パーソナルケア(英国本部からの圧力があったとは理解しておりますが、パーソナルケア系のComps対比では相当高い)やMBK/ツクイ(オークションにより高騰?)等は11x近い水準が出ていたとは記憶しております。

回答:ご指摘ありがとうございました。ビリオンドル越えの大型案件はバリュエーションもレバレッジも高まる傾向にありますが、スモール・ミドルキャップでは、ご指摘内容を検討し、必要に応じ、改善させていただきます。

プライベートエクイティ業界のファンドサイクルとは

質問:P.57 ・「前のファンドサイクルでずいぶんGPも減ったので」との記載につき、為念背景をご確認させて頂いても宜しいでしょうか。

足許実態を反映したものではなく、説明の一環として仮想的な状態に言及したものとの理解で宜しいでしょうか。また、ファンドサイクルの定義につきご教示いただけますと幸いです。

回答:説明の一環としての仮想的な状態となります。なおファンドサイクルとは、厳密な年で区切られるというより、1号ファンド、2号ファンド、3号ファンドといった、ファンドレイズをした時からエグジットを終えた時という単位で区切られるという認識です。

LBOローンのマルチプルが上昇し過ぎると、何が問題なのか?

質問:P.58 ・「これ以上LBOローンをアグレッシブに出すと、バリュエーションが高騰しすぎてしまいます」という点に関して具体的に確認させて頂ければと存じます。

こちらはLBOローンをアグレッシブに出せる➝オークション案件において、タッピングしたレンダーから受領したIndicationで相当のレバレッジが乗せられることが判明➝競合入札者も同水準のレバを乗せてくる前提でPriceを高めに出す➝結果としてバリュエーションが高騰、といった論理となるかと存じます。

その場合、リターンの観点からはバリュエーション高騰はレバレッジの増大と一定程度オフセットされるため、問題視はされないと思われます。(寧ろ、当該バリュエーションの前提条件となるLBO調達が余儀なくされることで、買収後の返済リスク/Covenantsヒットリスク等が高まることを懸念する必要?)この認識に齟齬御座いますでしょうか

回答:買収後のデット返済リスクと、売却時にレバレッジ環境が悪化した場合に、エグジットバリュエーション低下リスクを指します。

バイアウト案件で、EBITDAが大きく伸びることはあり得るのか

質問:「今はレバレッジ・・ではなく、EBITDAをどれだけ伸ばせるかですね」との記載に関して、例えば毎期EBITDA100億円(FCF Conversionが非常に高く、EBITDA=FCFとする)とすると、保有年数に準じて数百億円のDebt Paydownが行われますが、EBITDA Growthがリターンドライバーになるということは、EBITDAが当該数百億円をはるかに上回る成長が行われることかと存じます。

これは、ある程度成熟した企業を買収するはずのPEの投資ステージではやや考えづらいことかと存じますが、こちらの記載は上記のような状況を想定したものでしょうか。

又は再生系に近い案件で、FY1のEBITDAがコロナ禍で落ち込んでいるが、今後数年間で大きく回復/成長することが見込まれているものを想定されておりますでしょうか)、それとも、「レバレッジ」の定義の認識が異なりますでしょうか。

回答:日本のバイアウトはミッドキャップ、スモールキャップが大半で、EBITDA水準は数億~数十億水準が多いです。ガバナンスが非常に弱く、コスト構造の合理化や、有望製品のトップライン伸長等で、EBITDAが大きく伸びるディールも沢山存在します。

ただもちろん、仰るような成熟企業で、安定的キャッシュフローでレバレッジを効かせてデットを返すことがリターンの源泉になるディールも存在します。

プライベートエクイティ案件のオークションに関して

質問:P.60 ・「ファイナリスト数社だけが限定的に呼ばれるリミテッド・オークション」に関して、こちら「ファイナリスト」との記載がありますが、売り手(及び売り手FA)が何らかの基準により(買い手の意向を確認しない段階で)数社に絞って、それ以上の入札者は招聘しない形のオークション・プロセスが設計されることがあるとの趣旨となりますでしょうか。

回答:その通りです。

プライベートエクイティのリミテッド・オークションの利点とは?

質問:また、フル・オークション対比で何らかのベネフィットがあるとのトーンで記載頂いておりますが、オークションである以上はValuationも高騰する可能性があります(競合の数に限らず、他入札者が出してくる札の読み合いであるため、FAを通じて漏れ聞こえてくる競合入札者と彼らのキャパシティ等に鑑みて札を入れるという前提であるとの理解です。

「ファイナリスト」として売り手に招聘された入札者は、高い価格を出してくれるから呼ばれたのだとすると、フル/リミテッドに限らず、Valuationの観点ではあまり利点はないとも考えております)が、どこにメリットを見出されておりますでしょうか

回答:値段だけではなく、売り手に信頼されているか、成長戦略が評価されているか、買収後の従業員の扱い、評判などなど、値段以外の要素でも選ばれます。

一般に、フルオークションよりもリミテッドオークションの方がバリュエーションは下がると考えられますが、ご指摘の通りリミテッドオークションに残ったファンドが高いバリュエーションを出す所トップ数社が呼ばれている場合、バリュエーション面ではそう違いはないと考えられます。