プライベートエクイティ転職前に考えたい、バリューアップ/ガバナンス構築パターン

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戦略コンサルや外資系投資銀行出身者の転職先として、いまだ大人気を誇るプライベートエクイティ業界。プライベートエクイティファームのバリューアップ手法は、アセットクラスの違いのみならず、ファームやファンドごとに多様なパターンがあります。そんな中、貴方は何をバリューだと認識していて、それをどのようにして上げていきたいと思ってらっしゃるでしょうか?PEファンドごとに異なるバリューアップの何たるかに対する認識の深さが、各ファンドとのパートナー面接時に貴方を輝かせるのです。

プライベートエクイティ転職志望者の多くが、プライベートエクイティ業務の本質を聞かれても、退屈な回答に終始してしまいます。

投資家からお金を集めて、低めのバリュエーションで買って、バリューアップして、高いバリュエーションで売って、投資家に高いリターンを提供する。。」などとブツブツ、表層的で当たり前なことを言ってしまいがちなのです。これが面接での質問の意図に答えていないのは、明らかでしょう。

それでは、プライベートエクイティの本質的価値とはどのようなものなのでしょうか?

めでたくPE業界へ転職を果たした後、あなたはプライベートエクイティ転職後、潜在投資先企業及びLP投資家に、自社のPEキャピタルを受け入れるよう説得しなければなりません。

そして彼らを説得するためには、その本質的価値、つまり「何がありがたいのか」を深く理解している必要があるのです。

以下では、プライベートエクイティの本質的価値と、その多様な「価値パターン」について解説します。

プライベートエクイティの本質とは

プライベートエクイティはその名の通り、私的なエクイティです。

この対語は公開株、つまり上場株ですが、べつに上場企業でもPEファームが所有しているケースはたくさんあります。

つまるところプライベートエクイティの本質的な要素は、コントロールの有無、もっと言えば取り締まり厄介を実質支配しているか、さらに言ってしまえば、社長をクビにして自分で経営者を変えられるか、が最も重要な要素なのです。

LP投資家が、バイアウトファンドに何を求めて投資しているのかを理解しよう

プライベートエクイティ、中でもバイアウトファンドに投資するLP投資家は、なぜそのアセットクラスに投資しているのかを理解しておきましょう。

彼ら・彼女たちは、バイアウトファンドがパブリックエクイティのような売りか買いではなく、経営を支配して様々なバリューアップの余地があることにかけて、資金を張り付けるのです。

このことの意味合いは、投資先の売り上げを伸ばすにしても、コストをカットするにしても、戦略的方向性を変えるにしても、つまるところアップサイドを取りに行き、ダウンサイドプロテクションを加えるうえで、何かとコントロールを握っているということが、プライベートエクイティファンド投資の、価値創出の源泉として期待されているということです。

プライベートエクイティのバリューアップの多様なパターンとは

バイアウトファンドはどこも、ガバナンスを投資先企業に提供し、自律的に回る会社にするなどとよく説明します。

しかしここで重要なのが「ガバナンスとは何か」「バリューアップとは何か」「そもそも何がバリューなのか」という哲学的認識です。

これはべつに、唯一の答えがあるわけでもないのです。それは、自分が担当した案件や、成功体験、失敗体験、またその人のプロフェショナルバックグラウンドから、どのような「ガバナンスの効かせ方」が重要なのか、理解や好みが変わってくるからです。

ある会社は、社内でくすぶっている有能な人材を登用して経営陣を入れ替え、会議体を設計して社内の風通しを良くすることに拘ります。

そして現場の声が上に吸い上げられるようにして「自律的に組織が回る」状態にすることを、ガバナンスの真髄だと考えています。

またある会社は、オーナーの不正経費や、怪しげな子会社への資金横流し、社費としてフェラーリや愛人との海外旅行を支払っていたり、勤務実態のない親族に高額の給与が払われていたりといった、コンプライアンス崩壊をただすだけで、利益とバリュエーションが一気に跳ね上がる案件を作りこみます。

またある会社は、優秀な人が頑張りたくなる人事システム・組織設計・リーダー登用を行い、金銭的インセンティブのみならず、社員一人一人のエンゲージメントレベルを高めます。

そうすることでトップマネジメント、ミドルマネジメント、現場の連携がスムーズに回るシステムの作りこみに拘るのです。

またそもそもガバナンス構築だけでなく、成長加速や戦略的価値の向上を売り物にするPEファンドもあります。

たとえば不採算店舗をリストラして成長できる店舗展開を加速させるタイプのバリューアップもありますし、利益は度外視してマーケットシェアを拡大し、シェアを伸ばすために高値で戦略的投資をする事業会社に売り込む「バリューアップの仕方」もあるのです。

利益を伸ばさなくても、戦略的価値を上げられることも

これに加えて、売り上げや利益はたたなくても、「海外に進出しました」という足掛かりをつくり成長ストーリーを描くことで(たいていは海外進出は失敗するのですが)、バリュエーションを高めにかかるファンドもあります。

要するにバリューアップとは会社の利益として見えるものだけではなく、多様なレバーがあるのです。

それこそ不正だらけで手を出せなかった会社をコンプラ順守の会社にするだけ、ないし企業を食い物にしている創業家に、揉めずに出て行ってもらうだけ、また利益は犠牲にしても、その企業を買うことで業界2番手が1番手に上がる「ゲームチェンジャーアセット」を作りこむことで、大きなリターンを手にしたりもするのです。

自分はどのようなプライベートエクイティプロフェッショナルを目指すのか

上記を鑑みた時に、自分はどのようなプライベートエクイティプロフェッショナルを目指したいのか、よくよく考えておきましょう。

各プライベートエクイティファームのバリューアップのパターン・特徴を知ることで、自分に向いているPEファームが見えてくることでしょう。

あなたはガバナンス設計のプロになりたいのか、それとも多様なディールアングル(事業承継、スピンオフ、金欠オーナーの緊急売却、銀行によるリストラなどなど)をこなしたいのか。

それとも投資先のアジア進出をサポートすることでバリューアップを果たしたいのか、ないしはダメダメオーナー企業を普通の企業に直すことでバリューアップしたいのでしょうか。

このように、日ごろからバリューアップとは何ぞやという哲学的認識を深めておくと、自分にフィットの高いPEファンドの理解にも役立ちます。

また当該ファンドと面接で議論するときも、ご自身と会社のカルチャーフィット(=つまり何を価値だと認識しているのかに関する整合性)を理解するうえで、大きな助けとなることでしょう。