
プライベートエクイティファームというと日本の場合、たいていはバイアウト戦略ですが、転職後は「なぜバイアウトファンドの資金を受け入れるべきなのか」を企業オーナーに、また「なぜバイアウト投資なのか」をLP投資家に説明できなければなりません。そんな中、なぜそれに意義があるのかを説明できない業界への転職面接に臨むのは、極めて準備不足ともいえるでしょう。以下ではプライベートエクイティファンドでの面接で、誰でもいえる浅薄な話で終わらないよう、なぜバイアウト投資なのかを論じる上での、深い背景を解説致します。
プライベートエクイティ転職面接前に知っておきたい、「なぜバイアウト投資なのか」という本質的理由とは?
外資系証券やコンサル上がりのプライベートエクイティ転職志望者のなかには、その志望動機を聞いてみると「バイアウトは過半数の議決権をもっているので、ファンド所属の自分が投資先取締役になり、事業会社の実務経験を積めるので、これまで傍観者的なアドバイザー出身者からするとやりがいを感じる」、みたいな回答がかなり多い。
だがしかし、さすがにこう文字でおこした時点でお分かりになると察するが、これはプライベートエクイティ面接での回答としては大失格だ。会社オーナー(ファンドでいうパートナー)が、「あなたが苦労して創った会社に入社して、色々学びたい」といわれれば、「勉強は学校でやってくれ。給与の対価として何を会社にもたらすのかを教えてほしかった」とリアクションされるのが自明の理であることに、あまり想像力は要しない。
見渡せば、世にはLPに託された資金でリターンを上げようとする投資ストラテジーは多岐にわたる。ファンダメンタル分析を駆使して上場株投資をする従来型ファンドマネージャー、ヘッジファンド、アクティビスト投資ファンド、テクノロジーベンチャーにマイノリティ出資するVC、そして上場維持したまま成長資金を私募割当で引受けるPIPEなどがそれだ。
ではなぜいま「バイアウトファンド」なのか?もちろんその回答が「ぼくが取締役やってみたいから」ではいけない。
バイアウトは経営支配を前提とする投資ストラテジーだ。これには3つの特徴と意味合いがあるので、筆者自身の現場経験から生身のストーリーを交えつつ、これらを解説する。
投資後の経営支援プロセス
まず最初に、バイアウトとそれ以外のストラテジーでは、投資後の経営支援プロセスがまったく違う。VCからマイノリティ出資を受けるベンチャーは、ほぼ誰も、その株主のVC(ましてはVCに就職しただけの下っ端アソシエイトやディレクター)のコーチングなど必要としていない。むしろ、そういう上から目線の「指導」に辟易としながらも、株主と角が立たないよう愛想よく付き合うのにうんざりしているベンチャー経営者が十中八九だ。
昨年、PE出身で、すでに億万長者になって引退している若年40代の筆者友人が、とある有望ベンチャーにエンジェル投資をしたと興奮していた。「ミッドキャップ企業のバイアウトをやってた外銀出身の彼が、テクノロジーの素養もあったのか」と私は密かに感心していたのだが、数か月後にお茶をしていると、もうその投資には完全に失望し、後悔しているという。「いろいろな知見を提供することで、自分の持分価値も成長加速化できると思っていたが、どうやら投資先経営陣が私を煙たがる」というのだ。
バイアウトならこの点、話がちがう。成功しても失敗しても一番大きいインパクトを食らうのはファンドである自分自身だ。だからこそ、(過半数以上の議決権をもってして)経営陣も自由に刷新できる。結果責任を持っている分、結果が出るまでありとあらゆることを提案し、実行するまで見届ける醍醐味と責務があるのがバイアウトファンドなのである。それが過半数議決権保有の意味するところだ。
モニタリング
業績の推移をリアルタイムで、必要なまで知れる、というのも実はバイアウトならではの協力な特権だ。四半期・月次報告のみならず、その気になれば週次、いや、日次だって報告を受けられる。経営陣をコントロールするということは、従業員のメンツから働き方まで、意のままに影響を及ぼせるということなのである。
この点、VCやエンジェル投資家、および上場株ファンドマネージャーは苦労する。投資先人事をコントロールしていない以上、東証の開示ルールや投資契約上約束してもらった以外に、情報開示を受ける権利を持たないからである。
今や日本でも無数のベンチャーがVCやCVCを株主として迎えているが、そういった投資家株主から、「昨今のコロナの影響で、売上や事業戦略の見通しに変更はあるか」という質問がベンチャーに殺到してる。そしてまさに、そのコロナでそんな不毛な質問の対応どころでないベンチャーは、かたっぱしからメールを無視しているのがほとんどだ。この点、取締役会含む人事を握るバイアウトファンドは違うのである。
エグジット
筆者は、業界ではやや珍しく、バイアウト投資もVC(マイノリティ)出資も経験している。
そしてVC投資案件に関し、私は周囲の人間にやや面白おかしく言うことがある:「VC投資なんて、投資契約結んで出資金を振込むまではすごいオベッカつかわれて丁重にVIP扱いしてもらえますよ。でも振込終わった瞬間に、投資先企業との力関係が逆転しちゃいますからね。あとはもう、毎日近所の神社にいって、『あの会社IPOしますように』と祈ってばかりいます。」という具体だ。
なんとも涙ぐましい話で、しかも事実である。
これを、ある日、とあるVC投資家に言い放ったとき、その彼はとても自尊心の高いひとで、「僕は神社などで暇せずに、投資先の社外取締役も複数兼任して成長ドライブしておりますよ」と、奇妙な逆ギレをされた。
が、要するに、バイアウト以外は持分を自由に売れないのである。(そして「VC社員による成長支援」がいかに投資先にとって煙たく、概して無意味な所作であるかは、前述のとおり。経営陣は、現場や創業の苦労を知らない少数株主に、とやかく説われたくない生き物なのである。)
上記3点をもって、バイアウトは他の投資ストラテジーと大きく違う。バイアウトだからこそ、ファンドレイズ時にLPに訴えたとおりの企業価値成長ストーリーを実行でき、どんなに劇的な環境変化が起ころうとリアルタイムで状況把握と対応ができ、売れる環境が整ったらすかさず売り抜け、LPにお金を返せるのだ。
あとは案件ソーシング力さえあれば、上記仕組みがあるからこそ、バイアウトファンドは高いリターンを出せる。なお、PE業界が「too big to fail」の性格を帯び、ポスト・コロナの世界で今後ますます存在感が高まるのが必至であることは2020年4月13日付特集で詳述したとおりだ。
「なぜいまバイアウトファンドなのか」、への答えが、ここにある。