バイアウトファンド転職:ハゲタカではない事業承継事例と、年収がやたら高い理由?

  • LINEで送る
プライベートエクイティファンドの中でも、マジョリティを取得して経営権を獲得し、経営をコントロールする投資戦略をとるファンドを、バイアウトファンドと言います。バイアウトファンドは1990年代後半に日本に進出した「ハゲタカファンド」といまだに混同されがちですが、その実態は全く別物です。以下ではバイアウトファンドがハゲタカファンドとどう違うのか、またバイアウトファンド転職後の年収はどれ位で何故やたらと高いのか、バイアウトファンドの仕事と年収の仕組みについて、解説いたします。

バイアウトファンドはハゲタカファンドではない

バイアウトファンドというと”ハゲタカファンド”という、それこそ1990年代後半にゴールドマンサックスASSGが大儲けしていた「不良債権処理時代」のイメージをいまだに持っている人もいます。しかし実態は大きく異なります。

当時はバランスシート不況で、日本に進出した投資ファンドが不良債権を買いたたき、会社の資産を切り売りしたり、半ば強引な回収でリターンを上げました。

その時のイメージから、ローンスターやサーベラスは日本の資産を安く買いたたいて会社をばらばらにする「ハゲタカファンド」という呼び名が広がりました

また日本のドラマでも「ハゲタカファンド」をテーマにしたシリーズが作成され、すっかり「バイアウトファンド=ハゲタカファンド」という悪い印象が、一部に染みついてしまいました。

しかしこの日本において、そのような仕事のやり方は長続きしません。実際に1990年代後半や2000年代初頭にできた”日系バイアウトファンド””和製ファンド”は、企業にガバナンスを齎すという、明確なバリュープロポジションを掲げ、提供してきました。

残念ながら日本では、バランスシート不況時代に進出したディストレスドファンドと、2000年代に登場した経営支援型のバイアウトファンドが長らく混同して誤解されてきたと言えるでしょう。

実際のところ、今のバイアウトファンドで、不良債権を買いたたいて、資産を切り売りして金融リターンだけ挙げて去っていくなどといったディールは、ほぼありません。

仮にそんなことをすると、次からディールソーシングが不可能になることでしょう。

バイアウトファンドが扱う、中小企業の事業承継案件が増えている

日本に限らず世界中で、バイアウトファンドによる中小企業の事業承継案件が増えています。

これは、自動車部品や薬局チェーンやレストランチェーンなどオーナーが一代で築いた企業価値数十億~数百億円レベルの企業で、2代目の子供がコロンビア大学MBAなどに留学した後投資銀行やグーグルなど多国籍企業でのキャリアを好み、田舎に帰ってきて御父さんの仕事をつごうとしないケースが世界中で増えているためです。

70年代、80年代に血気盛んな頃に創業した起業家も、今では80歳の高齢者。

しかしこれまで、中小企業にありがちなワンマン体制でやってきたため、周りは社長の顔色を伺うイエスマンだらけで、後継者など育てていません。

そもそも社内規定など一切なく、コンプライアンス違反もなんのそので、端的に言えば「会社の体をなしていない」ケースもしばしば。

そんなオーナー企業のマジョリティを買い取り、これまでの”個人商店”を”組織的な企業”に変革させる「資本と経営の担い手」として、バイアウトファンドの役割が高まっているのです。

バイアウトファンド転職後の年収が高い理由とは?~最大の要因は「キャリー」

さて、バイアウトファンドで仕事をすると、一体年収は幾らくらい貰えるのでしょうか。

先に答えを言いますと、”バイアウトファンドでの年収”という考え方は、正しくありません。肝心なのは「キャリー」なのです。

もちろん、年収も低くはありません。ファンドサイズにもよりますが、アソシエイトで2000万、バイスプレジデントやディレクタークラスで4000から5000万は貰えます。

しかし、本当の金銭報酬のアップサイドは”キャリー”にあります。

キャリーとは業界外の方には不慣れなコンセプトかと思いますが、要するに「投資リターンから元本と優先配当年率8%分を払った後の”超過利益”の2割」が、バイアウトファンドの収益になるのです。このキャリーの数%を貰うだけでも、億単位の収入になることも。

たとえば500億の投資元本が3倍で売れて、1000億から優先配当分や諸々コストを差し引いて、仮に400億が超過利益だとします。

するとその2割の80億が、バイアウトファンドの社員で分けられます。そしてバイアウトファンドは通常、パートナーがキャリーの大半を持って行った後に社員に分配されるのですが、仮に自分の取り分が1%だったとしても、馬鹿にならない金額が入ってくるのです。

このキャリーは通常ファンドの運用が終わるころ、つまり10年後くらいに入って来ます。ただラッキーなケースでは入社時に既にファンドがエグジットモードで、それほど待たずしてキャリーを貰えることも。

ちなみに年収でもらっても税金で沢山持っていかれますが、キャリーは配当収入やキャピタルゲインと同じで税率が20%なので、稼いだ分の大部分が所得として残ります。

バイアウトファンドでの収入を、「質の高い収入」にするために

バイアウトファンドで高年収を得るのは、昔のハゲタカファンドのようにゾンビ企業の解体処理をして収益を貪るのではありません。

潜在力のある企業を厳選し、5年なりの長期間、経営を支援して成長させ、十分なリターンが出た時のみその成長の果実の一部を分けてもらうことでこそ得られる高収入なのです。この意味で「質の高い高収入」だと言えるでしょう。

PS・もちろん、何がいい投資かは各自の投資哲学によって違うので、一概には言えません。”自分はどのような投資をし、どのようなバリューアップをし、どのような価値を社会に齎したい”という”投資哲学の有無”も、バイアウトファンドへの転職前によくよく考えておきましょう。