PE面接緊急特集:「コロナの影響」を聞かれた時の理想回答を徹底検証!

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プライベートエクイティ業界も、2020年初頭のコロナショックの影響を大きく受けています。しかし面接でポスト・コロナのプライベートエクイティ業界を論じるとき、バリュエーションが低くなるや、上場が難しくなるなどの、まさに誰でも答えられる話しかしない、残念無念な人が増えています。ここで聞きたいのは、コロナ禍で需要構造がシフトし、投資機会が魅力的になった会社(おうち需要のインテリアメーカー等)を議論することなのです。表層的な話をPEファンドへの面接でしてしまわないよう、本質的な実態を以下に解説します。

ポストコロナのプライベートエクイティ投資環境、どう変わるのか?

せっかく手にしたプライベートエクイティ面接という晴れ舞台で、コロナのPE業務への影響につき意見を求められ、月並みな回答をして自爆してはいないだろうか?「今こそ、割高だった会社が安く買えるチャンスだと僕は思います。」といったところで、その文章の「僕は」に意味はない。それしきの一般論は、毎日日経新聞に書いてあるからだ。

採用側で数多くのプライベートエクイティ面接をこなしてきた筆者としては、もう1パターンの面接者も目の当たりにしてきた。それは、月並みな回答を避けるため、控えめな一般論でそのトピックをできるだけ早く終わらせようとしてくるタイプである。

「ほんと、色々チャンスは巡ってくるとおもうんですよね。ただポートフォリオ企業のエグジットにはマイナスでしょうね。うーん。」と、やや微笑を浮かべながら、コロナの話題の一件落着の雰囲気を醸成してくる輩たちである。筆者にいわせれば、新卒入社等ジュニア採用でもない限り、月並み回答で自爆するタイプと同じく減点対象だ。

「コロナだから投資を安くできるだろう」だの、「コロナ環境下では投資先企業のエグジットが心配」だのは、「天気が曇ると雨が降るかも」といっているようなものでお奨めしない。かたや、具体的な投資先企業を挙げ、「ここはコロナの影響を特に受けそうで、同業他社ではこうして乗り越えてると聞くのでその辺どうですか?」などの個別論にはいれるならまだましだ。しかし、読者の多くは転職面接にきている時点で、経験不足や前職での守秘義務などもあいまって、個別投資案件のコロナ論議も難しいだろう。

そこで、本特集では、面接官の度肝を抜くコロナ回答案につき徹底検証したい。つまるところ、「投資サイドではなく、LPサイドの実状を俯瞰してマクロで語る」ことを提言する。

というのも今、コロナに揺れる米国では、PE業界が連邦政府と公的年金(LP)を、言い方を選ばずにいえば搾取できる事態になっているのだ。

米国PE業界は、2019年末時点で、約400兆円を運用し、新規投資につぎ込める現金として約160兆円を有するまでに巨大化した (引用:Preqin Ltd.)。投資案件数も、5年スパンでみたとき、2013年~2018年でPE業界は米国史上最大数の案件を実行した。

結果、米国では、PE傘下に3万5千の企業が所属し、880万人の雇用を支え、GDPの5%を占めるまでに至った。米国では近年IPOによる売出よりも、PEによる買収のほうが大きな額の「ファイナンス」になったといわれる所以である。

風が吹いたら桶屋が儲かるさながら、PEがくしゃみをすれば米国経済が風邪をひきかねない状態だ。

そしていま、米国経済がコロナで熱を出し、急激に弱っている。FRBと連携した米国政府による救済措置の効果を見極めるにはまだ時間を要するが、その救済措置の大きな柱としてPPPといわれるプログラムがある。 従業員規模500名未満の中小企業を対象とした、給与支払い資金融資への政府保証のことをいう。

しかし、このPPPは制度上、大企業やPEファンド傘下の中小企業を排除する規定になっている。そこで、PE業界はロビイストを通じて強力に政府・政治家に圧力をかけているのだ。

その圧力の論法は、以下の三本柱で構成される:

「(PE傘下企業が対象外になれば)米経済で不必要に多くの職が時間短縮、または完全に失われる」

「救済対象外になる結果、PEの投資リターンが損なわれ、LPの投資リターンに反映される結果、数十万人の米国民の年金や保険利払いが棄損する」

「傘下企業の資金繰り悪化でPEがLPに追加のCapital Callをかける結果、それに応じる義務のあるLPは既存資産を市場放出し、上場株相場のさらなる押し下げが起こる」

米野党・民主党幹部のナンシー・ペロシ下院議長なども、VCのメッカであるシリコンバレーの支持層を意識せざるを得ずか、「オーナーがファンドに過半数株式を売ったからといて、従業員が苦しむべきではない」と、PE業界の論調に同調している。

米国経済・社会がコロナで苦しいとき、そして大統領選挙のある今年に、PE傘下企業を救済しないと公的基金のLPや最終受益者である米国民が今よりも苦しむ。この人質論法でコロナ救済を勝ち取れば、PEは今後のポスト・コロナ時代にますます勝ち組となる展望だ。

まず、PEファンドは、投資先企業に財務やM&Aアドバイザリー業務を提供して巨額な対価を受け取る場合がある。投資先企業がコロナによる資金繰り悪影響を納税者資金で相殺できれば、そのフィーは今後もPEに入ってくる。

そして、投資先企業がコロナ倒産を免れる限り、PE業界の本業収入である2%の年間管理報酬を毎年徴収し、20%の成功報酬をエグジット時に受けとれる。

最後に、コロナによる相場の混乱でポジションを外さざるを得ない上場株ファンドマネージャーやヘッジファンドを尻目に、PEは(傘下企業の救済に回さずにすんだ)膨大なキャッシュパワーを発揮して、割安企業を根こそぎ買いあさり、おまけに高利貸付商品などでも儲けられる構図ができあがるのだ。

このように、PE業界にまつわるコロナの影響を知的に論ずるとき、PE業務のLPサイドのダイナミクスを踏まえて考えると一風変わった景色が見えてくる。そしてこれは、米国だけの孤立した事象では決してない。米カーライルが、日本のバイアウト4号ファンドに国内外LPからの2,580億円調達完了を発表したのは、ついこの間の3月25日だ。

「ポスト・コロナの日本PE業界」について面接で問われたとき、「PEのtoo big to failの利点」を語れるあなたは、一目置かれるに違いない。