
PEファーム間の違いを理解するために、有意義な視点で志望先と議論したいものです。では面接のときに、そのファンドへの理解を深めるために、どのようなことを聞くと意味ある議論になるのでしょう?逆に、どのような「皆が聞いてしまう典型的なつまらない3大質問」があるのでしょう?PEファームはファンドレイズでチームの一貫性・安定性をアピールしたいので、長期コミットしてくれそうなカルチャーフィットを極めて重視します。ファームの案件や関連ニュースを調べ、PE面接対策しましょう(写真はPE転職徹底対策テキスト)
日本PE業界において、GPのほとんどが投資テーマを「ミッド・キャップ、コントロール投資(字数節約のため、以下mid-cap control investment, “MCCI”という)」としている。
つまり、中堅企業のバイアウトだ。「日本は少子高齢化大国なので、事業承継ニーズが高まるなか、安値で放出される中小企業の受け皿になって儲けますよ」、というのが大義名分だ。
しかし、実際のところ、魅力的な事業承継案件をクローズできる確率はあまり高くない。
やや大雑把にこの点の立証を試みると、次のようになる。800億円のPEファンド8件投資実行するとする。一件あたり100億のエクイティを出せるのだが、通常レバレッジをかけるので300億円から400億円の買い物を見つけてこないといけない。もちろん負債込みではあるものの、日本の少子高齢化による事業承継ニーズは、もっとはるかに零細企業に多い。
この、「MCCIに見合うチケットサイズの希少性」に加え、せっかく見つけた相手がファンド嫌いの創業オーナーだったり、証券会社に競りにかけられて価格が吊り上がったり、あるいは「何とも言えないケミストリーのミスマッチ」でそもそも提案を俎上にのせられなかったりして、案件が進まないことが多々ある。
つまり、「承継案件のMCCI」は、巷でいわれるほど多くはなく、クローズする・その上リターンをあげる・そして再現性をもってそれをやり続ける、など、至難の業なのである。
そうはいっても、系列や大手事業会社のカーブアウト投資は、高度なセクター専門性や人的ネットワークも要求され、投資時の目利きや、買ったあとバリューアップの自信をもてるGPはあまりない。
結果、(1)小売など理解できそうなセクター案件を、(2)低金利レバレッジにものを言わせてバイアウトして、(3)資金繰りなど財務体質の最適化とコストカットでEBITDAを伸ばして、(4)マルチプルの良いタイミングで売り抜けよう、というやや消去法的な投資テーマに落ち着くむきが、実のところ、なくはない。
似たようなファンドが多いことの、PE転職志望者へのインプリケーションとは?
この実態が、PE志望者へ意味するところは切実だ。せっかくPE転職に成功してもまたすぐ転職活動、という羽目になりかねないからである。
小粒のヒットばかりでホームランのないファンドに将来性を感じれず、「どれだけパートナーとその予備軍のシニアディレクターが少ないか」を判断基準に、競合ファンドへ転々と転職するケースを筆者は知っている。
ジュニア・パートナー格ですら、「こんな競争過多なMCCIだけやっていては未来がない」と、PEファンドから飛び出して事業法人の社長になるケースもでている。
プライベートエクイティファンド各社の、投資戦略差別化作戦とは?
そんな中で、LPに問われ、そしてGP自身も模索し始めているのが、MCCIという投資テーマの「差別化」である。
筆者の知る某大手PEは、一昔前までは「コストカットと財務体質最適化に専念。海外展開はお化粧」程度の手法だったのに対し、最近ではますます「事業基盤のデジタル化・IT導入による伸びしろ追求」に躍起になっている。
4月17日日経新聞報道によると、CVCキャピタル・パートナーズは、1500億円を、事業法人との共同投資をメインテーマに投資していくという。
かたや、もっとドラスティックに、「デット・ファンド」を立ち上げてしまう事例も複数おきている。不動産担保主義の銀行が貸せない企業を相手に、売掛債権やオーナー株式を担保に融資し、高リターンをあげる。万が一不渡りがおこれば、担保権実行してエクイティの支配権をとり、MCCIとして売り抜けようというのだ。
つい最近まで「VCはやらない。PEと必要スキルが全然違うから」と言い切っていたようなPEが、近年、大手VCと業務提携をはじめているのも、このMCCI差別化の潮流が背景といえる。
MCCI案件の希少性を直視すれば、これらは当たり前の展開といえる。これまでの日本MCCIは、投資テーマの簡潔性を好みすぎ、その結果、必然的にリターン創造手法に極端に柔軟性を欠いた、とも言えよう。
プライベートエクイティも、ロングポジション以外のダウンサイドヘッジ戦略をもつべきか?
上場株の世界では、日々株価の乱高下が激しいこともあり、リターンの源泉は「現物株のロングポジション」だけではない。
2020年初頭ののコロナショックで市場が歴史的乱高下を経験した2020年1~3月期、米国ヘッジファンドは平均8%の評価損を計上したが、アクティビストで有名なElliott Managementは、2ファンドで同期間中平均2%のプラスを達成した。
現物株や債券のロングポジションの損失を、貴金属や金利スワップ、そしてクレジット商品による “protection trade”で補ったのである。
「プライベートエクイティは上場株と違って市場環境に左右されにくい」といいたがる人がたまにいるが、2020年3月、カーライル保有のウイングアーク1stが昨年に続き2度目の上場取り下げに至ったのは、市場環境悪化で十分な値がつかなかったからだ。
PEも、「現物ロングとコストカット」以外で、ダウンサイドをヘッジし、アップサイドの可能性は最大化するツールに柔軟性をもつべきであることに、議論の余地はもはやない。
高度な面接では、PEファンドの重要関心事項に関し、同じ土俵と目線で議論することが大切
話はかわるが、採用面接で、「最後になにか私に聞きたいことはありますか?」といってくるPE投資家は多い。
ほとんどの場合、志望者は、
(1)創業期の苦労話をきいて懐かしがってもらい、成功体験に酔いしれて、どさくさ紛れて自分に対しても良い気持ちになってもらう、
(2)知りもしない個別のポートフォリオ企業について細かすぎる質問をして、場がシーンとする、
(3)「逆にPE入社志望者になにを求めますか」、と聞いてしまって相手を疲れさせる、の3パターンのうちいずれかに終始し、はっきりいってどれも時間の無駄なのだが、「ミッド・キャップ、コントロール投資という投資テーマに、今後どういう進化が必要、またはおこしたいとおもっているか」を聞くのは、ありだ。
MCCI差別化論は業界のインサイダー知識で、知っておくだけでもそれとなく身振りに反映され、一目置かれるだろう。そして自信があれば、実際聞いてみよう。
極論、答えはあってもなくても良い。真に重要な関心事項に関し、志望者と面接官が同じ土俵で対話できること自体、面接の成功なのである。
*写真はプライベートエクイティ転職徹底対策テキストより