
投資銀行の、どの部門に応募するか、悩まれていませんか?仕事を選ぶ上で、「やりたい仕事」と「自分に合う仕事」がマッチしないことがよくあります。適正とやりがい、どちらを優先するかは、キャリアを決める上で非常に重要で難しい問題に、外資系投資銀行で長い勤務経験を有するStrong Career講師が回答します。
投資銀行志望部門の選び方~投資銀行部門か株式営業か?
東京大学農学部Mさんより質問
私は今、外資金融のセールスにとても興味があります。それは以下の理由からです。
1、周りに優秀な人が多く、また若い内から大きな仕事を任されるので、成長スピードが早い。
2、インセンティブ重視の給与形態となっており、結果を出せばその分返ってくるので、モチベーションが上がる。
3、私は人と会ったり、話したりするのが好きなので、接待なども苦ではない。むしろデスクワークより、そちらの方が良い。
しかし、「やりがい」という観点で見たとき(「やりがい」をどう定義するかによるが)、企業再編に貢献し、多数のM&Aを手がけるIBDや、企業に向けてコンサルティングを行い、実際に企業を成長させる戦略コンサルなどの方が感じられるのではないかと思ってしまうのです。
例えば、徹夜などが続き、体力の限界が近づいたとき、「自分は日本経済あるいは世界経済に貢献しているんだ」という気持ちがあれば、頑張れる気がします。
セールスも勿論、経済に貢献しているのですが、業務上感じにくいと思うのです。
自分には性格上セールスが合っていると思うのですが、自分に合っているというだけで選んでしまっていいのかどうかお聞かせください。
講師からの回答: 結局は自分が楽しいか成長しているかが重要~自分の仕事選択の軸と、現在の優先順位次第
端的に申しまして、ご自身の仕事選びの軸と現在の状況によりけりです。
確かに株式営業は頑張って”資本市場で適正価格のマーケットメイクを通じ、将来性のある企業の資金調達を助けている!”とかなんとか言い張ろうと思えば言い張れますが、たいていは単に株の右から左への横流しで、ゼロサムゲームの仲介役という虚しさを感じる人もいるでしょう。
しかしコンサルにしても”実行されない提言で終わる”と虚しさを感じる人もいますし、投資銀行部門も”不要な資金調達や、不要なM&Aで価値を破壊している上、不要な雑務が多すぎる”とそのやりがいに疑問を抱く人はいるものです。
「仕事のやりがい」は大それた社会貢献以前(社会貢献しないといけないと社会的に洗脳されていることに気づきましょう。
人間はそもそも、そんな大きな責任を負う前に、自分と家族とせいぜい身近な友人知人の幸福に貢献することで、リターンとして自分を守ってもらう、というライフモデルで発展してきたのですから。
”そもそも自分は楽しくて幸福ないし将来につながるか”を起点に考える方が大切だと私は思います。
得意だというだけで、仕事を選んでよいのか?
自分に合っているというだけで仕事を選んでいいのか。これは”自分に合っている仕事”選別の基準にもよりますが、あなたの場合は”自分の適正を鑑みて、強みを発揮できる”ということでしょう。選んでいいかですが、これもあなた次第です。つまり仕事を選ぶ基準は人によって違うからです。
例えば東洋経済新報社から出ている名著「最強の働き方」では、仕事選びの基準として「好きなこと」x「得意なこと」x「需要のあること」の掛け算が提唱されていますが、この中の「得意な事」だけで選んでよいのかという質問に置き換えられます。
仮に、あなたが好きな事や需要があることを、趣味や既に有している家の資産で代替できるなら、別に仕事を”得意なこと”だけで選んでも何の問題もないでしょう。
また、今の優先順位がとにかくお金を稼ぐことであれば、得意なことx需要のあることの2基準が優先するでしょう。
仮に稼ぐ必要もなく、活躍する必要もなければ、「好きなこと」の一点で選んでもかまわないでしょう。つまるところご自身の状況と、仕事選択の基準によりけりなのです。
中には、仕事内容よりも一緒に働く人を尊敬できるかどうかが重要、という仕事選びの軸も大いにあり得るのです。もちろん相談文の中で述べられた、頑張れば頑張っただけ報酬に跳ね返ってくるインセンティブシステムが重要という方もいらっしゃることでしょう。
結局は自分にとっての仕事選択の軸と優先順位に納得することが重要であり、これは他人のそれと比較しても意味がないのです。
20代、30代で総じて仕事選択基準の優先順位は変わってくる
なお、仕事の選択の軸と優先順位は総じて固定的なものではなく、人生のステージごとにダイナミックに変わるのが自然です。
よくあるのは、20代前半は別に向いてなくても修行の年なので、自分が興味のある方向性の中で成長曲線が一番高い仕事を選ぶというパターンです。
ただ30代になってくると自分の強みを発揮しないと生き残れないので、それまでに積み上げた経験と強みと自己認識の深さを生かして、本当に自分が好きなものを選ぶ、といったイメージでしょう。
ただこれも、人の価値観によっては”人生短いんだから、一寸たりとも楽しくない仕事はしたくない”という人もいますし、重ね重ね個人の価値感次第でしょう。
自分の適性を知る「自己認識」が深いことが大切
貴方がよいのは、自分の強み、適性を若くして理解していることです。
貴方のように対人関係構築力と感じのよさを美徳とし、特に自分で企業分析したりレポート書くことに興味の無い人は、確かに株式セールスで実力を発揮なさるのも良いかもしれません(ただし業態としての先行きは極めて暗く、長期的キャリアを賭けるのは考え物ですが)。
ただし自分こそ賢いんだ、自分の意見を世間に広めたいんだ!みたいなタイプは、アナリストがつくる、往々にしていまいちなレポートを投資家に伝えるというこの仕事がむなしくなるので、その点注意しましょう。
ちなみに性格的な面で付け加えると、セールスには謙虚な人、可愛げのある人(少なくともそう振舞える人)が多いので、この点も考慮しておきましょう。(そして不況も会社で乗り切れる人は、社内政治に長けた人なのです。)