
投資銀行を目指すうえで会計士資格をとるべきかという質問も、当セミナーによく寄せられる質問です。ズバリ、不要です。以下では回答に関連し、会計士を辞めて転職したがる人の3大転職志望動機と、会計士と投資銀行のキャリアのリスクリターンバランスの違いに関して論じます。なお、質問者様の「投資銀行か会計事務所、どちらが成長できるのか」「投資銀行のオフィサーへの近道はどちらか」という問いにも答えます。
会計士を辞めたい人の転職動機3パターン:投資銀行での仕事に会計資格は有利か?
東京大学経済学部 Mさんより質問:コンサル志望動機VS会計士志望動機
私は、企業に対して財務的なアドバイスをするという共通の目標はあるものの、公認会計士の資格を取得し監査法人へ入所することと、外資系投資銀行へ就職することとどちらをとるべきか考えています。
なぜ私が財務的なアドバイスをすることに対してこだわりがあるかといいますと、大学二年生時に、資金調達支援のコンサルティング会社で働いていたことが関係しています。
そこでは、顧客企業が無担保低利息で公的資金を借入調達するために、顧客に代わって企画書を作成するという業務をしていました。
その際に、企業の財務諸表を目にする機会に恵まれ、同時に資金不足によるアイデアの実行困難や、不必要な事業への投資による利益の減少といった問題を目の当たりにしました。
これらの問題を解決したいと考えたことから、私は公認会計士の学習を始め、同時に投資銀行への志望を高めることになりました。
監査法人、投資銀行の両インターンを経験してみましたが、現在では、投資銀行で意思決定のためのアドバイスを行うことに魅力を感じています。
監査法人は、意思決定のためよりも、すでに行われた取引に対する説明の要素が強いためです。
将来的に自分が投資銀行のオフィサーになりたいと考えた場合に、公認会計士として経験を積み、自分なりの強みを持った上で投資銀行に臨むことと、新卒で入社し若いうちから現場で経験を積みながらオフィサーを目指すことのどちらが、オフィサーを目指す上で、その目的を達成しやすいのでしょうか。
またどちらが将来的な自己成長の可能性をより多く与えてくれるでしょうか。
公認会計士の転職志望理由:過去の数字の、顧客に逆らえない分析に飽きた!
上記ご質問を鑑みるに、両方インターンを経験されて投資銀行のほうが向いていると思われたのでしたら、そうされたらいかがでしょうか。
ただし、イメージされている企業の資金調達支援が、投資銀行か会計事務所の二択かといえば、他にも選択肢はあります。
さて、要するに、資金調達のアイデアが無かったり、無駄な投資で資金を垂れ流している企業の財務戦略や資金調達をサポートすることにやりがいを感じた原体験から、そのようなお仕事をされたいのだと思います。
第一に貴方のおっしゃる通り、会計士の仕事はともすれば過去の数字、すでにされた取引の説明要素が大きく、それが退屈で辞める人もいます。
しかし中には、そのような仕事が向いているということで、長らく幸せに会計士をしている人も、確かにいるのです。ですからインターンで経験されたご自身の直観的な比較と選好が重要になります。
第二に、将来投資銀行のオフィサーになるということを考え、そのために会計士になっておくことが有利かということですが、そんなことはないです。
投資銀行のそれこそパートナーで、会計士資格を有している人は少数しかあったことがありません。
会計士資格所得に必要な時間投資を考えると、「オフィサーになるための努力」としては、無駄ではありませんが、会計知識習得に対する過剰投資な感が否めません。
会計士の典型的転職志望動機:仕事が嫌になる典型的理由とは
監査法人での仕事に関する確かに意思決定よりも、過去の取引に対する説明の要素が強く、それが公認会計士から投資銀行やコンサルに転職したい人が多い典型的転職志望動機になっているのも事実です。
また最近会計士から戦略コンサル、投資銀行調査部を経験した方と議論する機会があったのですが、会計士の監査に不満を感じる理由として、まず若手のペーペーがまず調べるものの、そこで見落とされたものはシニアのレベルにあがってこないのでまずもって穴だらけであることを指摘しています。
また引き当てや償却期間の見積もりなども外部の会計士が判断できるわけも無く、結局企業のいいなりであることが多いものです。またそもそも、お客の企業を厳しく締め付ける監査ができないことなどを”不満理由”として挙げています。
第三に、会計士は昔ほど儲からなくなっており、1000万にはなっても2000万に上がるのに、パートナーにならないと見えてこないものです(以前と異なり、残業代をつけにくくなっているのです)。
おまけに会計士の仕事はAIはRPAに代替される業務もかなり多いものです。これに対し投資銀行の戦略的なアドバイザリー業務は、金融の仕事の中では最もAIに代替されない仕事と言えます。
不況期にツブシが利く公認会計士、不況期に真っ先に仕事がなくなる投資銀行バンカー
会計士と投資銀行の向き不向きですが、不況期のダウンサイドリスク対策という意味では、会計士強しです。
金融商品のリスクリターンバランスと同じで、キャリアもダウンサイドリスクが大きいからこそ、アップサイドリスクも大きいものです(中にはアップサイドが無いのにダウンサイドだらけのブラックキャリアもありますが)。
あなたのキャリア選好性が”不況期のダウンサイドリスクヘッジ”に向かっているのであれば、会計士の資格と経験を持つことはセーフティネットとして機能します。
不況で投資銀行の若手が大量に市場に放出され、他の業界では対して役に立たない人が多い中、会計士資格保有者はなにかとつぶしが効くからです。ただし、公認会計士としての収入上のアップサイドは1000万円から2000万円の間で限定されることが大半でしょう。
これに対し外資系投資銀行は2019年後半の時点ですでに新卒一年目でボーナス含めて1000万スタートになっていて、MDになれば5000万、下手したら何億のボーナスがもらえますが、仕事量は会計士より多く、かつクビになったらただの人です。
ご相談への回答を繰り返します。双方のキャリアに一長一短と適性の違いはありますが、インターンをして会計士より投資銀行という納得感が強いのであれば、投資銀行でのキャリアを選ばれたらよいのではないでしょうか。