
世界各国で最も競争的なビジネス人材は、戦略コンサルか投資銀行を目指すことが長年続いてきました。そしてこのコンサルVS投資銀行という比較も、日本だけでなく世界中の有力大学の学生が考えるトピックです。これに対する回答も様々な人がしていますが、本質的な違いはその両者のビジネスモデルの違いに起因しています。両業界のビジネスモデルの違いのみならず、エージェンシーコストの違いも理解したうえで、御自身にフィットの高いキャリア選択をしましょう。
コンサルと投資銀行の仕事内容・ビジネスモデルの違い~M&A編
慶応大学理工学部Nさんより質問
戦略のコンサルでは今、M&Aによる成長戦略やM&A後の統合マネジメント関連のプロジェクトが増えていると聞きます。
私が思うに、こうしたビジネスは投資銀行でもやっていて投資銀行の方が資金調達なども含め総合的にサービスが提供できると思うですが、このような業務において戦略のコンサルのニーズがあるのはなぜですか?
M&A関連で、投資銀行ではなくコンサルティングファームに依頼する内容とは?
まず、投資銀行と戦略コンサルのビジネスモデルが違うからです。投資銀行は企業買収なり、資金調達なりを実行して初めてフィーを得るモデルです。よって、取引が実行されることを前提にピッチや提案をします。
これに対し、コンサルは時間チャージのフィービジネスです。よって、案件が実行されるかどうかに関係なく、レベニューが立つモデルです。結果的に案件の幅は広がりますし、かつ案件の実行にバイアスがよった提案になることもありません。
したがって、そもそもそのM&Aを実行すべきかどうかといった案件は、コンサルティングファームに依頼することになります。ちなみに、いざM&Aが実行された後のポストマージャ―インテグレーションは、投資銀行にとってはそれに参与しても別に追加的なM&Aや資金調達の案件に繋がるわけでもないので、コンサルの出番となります。
投資銀行とコンサルファーム、それぞれのエージェンシーコスト
ここで、投資銀行とコンサルティングのビジネスモデルに紐づく、エージェンシーコストに関して理解しておきましょう。
投資銀行には投資銀行ならではのエージェンシーコストがあります。彼らはMAアドバイザリーに関し、MAが実行されてこそフィーが入ってくるので、基本的に”この買収はしたほうがよい!”となってしまうのです。(このビジネスモデル上のエージェンシーコストが、M&A案件の7割は失敗に終わるとされる所以でしょう)
これに対し、コンサルは別にMAが実行されようがされまいが、その期間働いたことに対するフィーをもらうので、MA実行の有無に関するエージェンシーコストは発生しません。ただし、プロジェクトを長引かせたり次のプロジェクトにつなげてさらにフィーを頂こう、という違う種類のエージェンシーコストが発生します。
ですので、「本当にその案件実行が企業価値を高めるかどうかは知らないが、とにかくいらんディールでも実行させたい」という困った人は投資銀行の方が向いています。
逆に「案件の実行の有無には興味はなく、ひたすら長々と検討したい」というタイプの人は、コンサルティングが向いているでしょう。(もっとも、投資のデューディリジェンスに携わったコンサルファームは、投資実行後のバリューアッププラン実行プロジェクトにも参画することが多いので、この意味でのエージェンシーコストは存在するのですが。)