
超低金利が続き、金余りで多くの銀行の本業が変革を迫られる中、フィンテックや仮想通貨の浸透で、金融業界が根本的な変革を迫られています。そんな金融業界での働き甲斐に関する本質的な問いに答えます。
金融業界で働く意義とは何なのか、3大働き甲斐パターンとは?
京都大学大学院 経営管理大学院 CKさんより質問
私は、現在大学院でPFIという社会資本(電力会社や道路などのインフラ)整備に民間資本を活用する方法について学んでいます。
というのも、フランスへ留学したときの経験から、人や社会を動かす仕組みについて勉強したいと思ったからです。
現在では、社会の仕組みについてだけではなく、証券化や金融商品の組成についても興味を持っています。
私は、金融商品を作ることが社会や企業のためにもなっているのではないか、という風に思っているのですが、実際に働いている方々がそういう気持ちを感じることはあるのでしょうか。
人によってまったく違うと思うのですが、特に金融機関で働くことが与えてくれる喜びややりがいについて、お話を聞いてみたいと思っています。
講師による回答
よい質問ありがとうございます。やはりその業界を目指すには、その業界で提供できるサービスやプロダクトに、誇りや意義を感じなければ、モティベーションがわかないですよね。(これが悲しいことに数年すると、目先のボーナス額と昇進に完全にコントロールされる人が大半なのですが。)
金融の喜びは、まず第一に、(私の個人的なものですが)余剰資源を成長分野・資源を必要としている分野に振り分けられるという金融のそもそもの機能を大変有意義で面白いと感じる点です。この「金融」という字はよくよく読むと奥が深く、まさしくお金が融けて、形を変えて社会の様々なところに配分されるのです。金融機能の発達は、社会の資源の最適配分にとって不可欠な社会インフラと言えるでしょう。
第二に金融業の魅力は、これは部門にもよりけりなのですが総じて、幅広く産業・企業を知り、トップマネジメントと直接対話し、人脈を築ける点です。幅広く業種や企業を見れることから、どのようなビジネスが世の中に存在するのかを直接学ぶ機会に溢れていますし、自分が興味を感じる仕事に出会うよいトレーニング機関ともいえるでしょう。
三つ目ですが、やはり給料は高いのです。といっても一昔前のリーマンショック前の水準まで給料が戻っていない会社が殆どで、実際最近もゴールドマンの給料が2007年に比べて何割も下がっているみたいな記事がFTで出ていましたが、トレーダーの仕事が大量になくなったりと、AIの進展で「それほど旨味がなくなる業種」になる部門も数多く表れることでしょう。しかし実は、政府系金融機関で、首になるリスクもなく、大してやることもないのに1000万越えの給料をダラダラと支払われる企業も、意外と結構あるのです。(地銀の統廃合が進み、AIの進展で採用がさらに減らされていくのは間違いない業界動向ではあるのですが)
ただ、その志望動機は様々です。金融商品を開発するのが面白いという人もいますので、貴方が仰る通り、一概に金融の喜びも語ることはできないと思われます。
さて、金融商品が社会の役に立っているかという意味では、これもケースバイケースです。どう見てもこんなデリバティブいらないだろ、とつっこみたくなる商品もありますし、このストラクチャードプロダクト、構造をややこしくしているだけで全然リスクヘッジになってないから、と突っ込みたくなる商品もあります。
ですが、異なるリスク許容レベルの投資家に、そのリスクに応じた異なるリターンアップサイドレベルの商品を提供するのは、リスクマネーをリスキーではあるが成長する可能性のある分野に誘導する上で重要な意義があると考えます。
多様な”リスク・リターンバランスの金融市場”が必要
肝心なのは、その異なるタイプ(リスク・リターンバランス)の市場が十分に発達することです。
残念ながら日本では豊富であった資金が、国策から国債に振り分けられるように制度設計されており、結果財政規律は崩壊し、国債を買う国内マネーに甘えてリスクマネー市場が発達せず、企業のリストラや再生が大幅に遅れたという経緯を持っています。(この点、昨今のGPIF改革は遅すぎたとはいえ、評価できるでしょう。今後は民営化した郵貯の巨大マネーをどう振り分けるかが大きな課題となります。2018年は、巨大郵貯マネーめがけて外資の資産運用会社が日本に殺到した一年にもなりました。)
とにかく伝統的な銀行が貸してくれない企業、株式投資家が手を出さない企業でまだ伸びる余地、再生の余地のある企業に、様々なダウンサイドプロテクションやアップサイドオプションを組み合わせることで資金を融通することが、社会の役にたつ金融商品の特徴の一つと言えます。
端的に言えば、異なるリスクプロファイルの資金需要に、投資家が投資したくなるような条件とストラクチュアリングの金融商品を用意し、従来の金融市場では調達できなかった類の案件に新たな投資家からお金を引っ張ってくることができることなどは、金融商品開発の醍醐味の一つと言えるでしょう。(まぁ、何に社会貢献を感じるかは、自分が何を大切と思うかという価値観次第なので、一概にはいえないのですが)
最近の事例では、2016年でやや下火になりましたが、某米系投資銀行は太陽光関連の金融商品を資本市場でかなり売りさばき、大儲けしたのは記憶に新しいところです。(逆に言えば、エキゾチックで難解なストラクチャーで無知な投資家から高いフィーを搾り取るだけのためにしか思えない商品が、悪い金融商品と言う事ができるでしょう。サブプライムローンもそうでしたが、投資家がよくわからないものを、いかにも打ち出の小槌であるかの説明をして売りつけるのが、典型的な悪い金融商品のパターンです。)
なお余談ですが、リスクリターンバランス関係なく、”とにかく売れている”という理由だけで売れ、”みんな売っている”という理由だけで売られる、実態の価値の裏付けと関係なく乱高下するのがバブルですが、散々もてはやされ、結局2019年が終わるにつれて急落したビットコインなどは、リスクリターンバランスを無視したバブル相場の悲惨な事例の一つになってしまいました。