
プライベートエクイティに転職し、さらにプライベートエクイティファンドから転職した人々のキャリア展開はどのようなものでしょうか?VCを立ち上げ成功したり、バイアウトファンド立ち上げ古巣より大きくなったり。バリューアップに興味と適切がなく投資銀行に戻ったり、スタートアップに入り資金調達や上場準備やエグジット担当のプロCFOとして渡り歩いたり。中には謎のブティックファームをはじめて、実質失業者みたいな人もいます。その悲喜こもごもの模様をお伝えします。
同期飲み会に出現する要注意人物
PEに転職すると、「同期会」なるものがある。入社日が同年度内のひと同士であつまる、社内飲み会だ。PEパートナーやシニアディレクターなど、頭の中で実際何を考えているか分からない上司たちとの会食とちがい、同期会は砕けた本音トークができ、それはそれで楽しかったりする。
ただし同期会では、お決まりといっていいほど遭遇するシーンがある。乾杯を終え、社内ゴシップも一巡したあたりで、同期たちが「おれにも黙って50億とかだしてくれるLPがいたらな~。絶対いい案件もってこれるのに。」
「いやいや、まずは20億でもまわせるっしょ。集まったらすぐにでも辞めて独立してやる。だって20集めたらマネフィー年間4千万っしょ!」
と、威勢よく語りだすのだ(以下、「勘違いした一生成功しない同期たち」、略して”KIDs”と称す)。
今回、この見当違いな与太話が映し出すPE投資の真髄につき、解説したい。
PEに「鶏と卵」はあり得ない
KIDsの発言は、「ドライパウダーさえあれば、それを梃(てこ)に良質案件をソーシングしてリターンを出せる」という発想に依拠している。
案件ソーシングとファンドレイズの関係性についての、致命的な勘違いである。
投資の世界では、「鶏と卵」といったおぼろげな比喩は通用しない。必ず、鶏(案件)が先にくる。卵(現金・果実)はそのあとについてくるものなのだ。つまり、PEファンドのGPたる存在意義は、案件ソーシング力にすべてかかっている。
この点は、PEファンドの歪なコスト構造をみても瞭然である。
PEのコスト構造が語るプライベート投資の人気
分かりやすさを優先して大雑把に言えば、LPは、PEに対してマネジメントフィーとしてコミット金額の2%を、10年間毎年支払う。LP主観でいえば、これは「せっかく50億コミットしても、ファンド末期までに10億円はフィーに容赦なく消える」という話になる。金持ちの自己投資でなくLP年金運用と考えれば、これは法外なコストだ。
このマネジメントフィーに加えて、ファンドはエグジット時の譲渡益から、結構なんでもかんでも関連経費として差し引く。投資時やエグジット時のFA報酬はまだ理に適うとしても、「こんなに贅沢する必要ありましたっけ?」とおもえるような支出も差し引かれる。
例として、PEには、AGMという行事がある。Annual General Meetingといい、LPへの年次集会で、一般企業でいう定時株主総会の位置づけだ。
“Extravagant”は、PEのAGMを表すためにある言葉ではないか、と思うことがある。リッツカールトンしかり、最高ランクホテルの会場を借り切って、シャンパンやオードブルが尽きることのない、巨大カクテルパーティなのだ。あるAGMで、地銀のLPが私に声をかけてくれた。「立派なAGMですね。ちょっと場違いで緊張します」。
「いやこれ、ぜんぶあなたたちのカネですけどね。」と、筆者は神妙に思ったものである。
なぜこのコスト体質がまかりとおるのか?
PEは、Gross IRRにしてざっくり15%~25%をベンチマークにする「オルタナティブ投資」商品だ。普通の人には到底見つけられない、「うま味」ある投資案件を相対(プライベート)交渉してもってくるからこそ、高いリターンが見込まれ、高いコスト構造が正当化されている。
LPである年金や保険会社からすれば、こぞって投資エクスポージャーを増やしたいわけである。
ある大手生命保険運用担当者はいう。「従来型商品は十分以上にウェートをもてている。投資機会でいまもっともほしいのが、private equity とprivate debtだ。」言い換えれば、「鶏」をつかまえられる投資家が、ほかのだれよりも一番強い。
案件ソーシングができるPE社員の大成功パターン
鶏をつかまえた投資家の強さは、PE独立者の成功例をみてもよくわかる。少なからずのPE卒業生たちが各々に立ち上げる、「小粒匿名組合ファンド」たちである。
大手PEファームのアソシエイトやディレクターとしてせっかく案件発掘しても、すべての案件をファームの投資委員会に諮れるわけではない。「チケットサイズが小さすぎるのでどのみち投資対象外」という理由が大抵だが、それ一義的には債券投資案件で、エクイティバイアウトのスコープから離れる場合などもある。
それでも、条件的にみて、「強烈なリターンが上がるとしか思えない案件」に、遭遇することがあるのだ。
そんな鶏を手にした彼らは、個人的知り合いの富裕層や大企業社長、およびそのまた先にいる資産家にかけあう。「私は無名で、実績もない。ただ、もってきたこの案件だけをみてLP投資してくれ」、と訴えるのである。
こうしてコミットがあつまった時点で、かれらはファームに辞表をだし、もっとも規制コストの安い匿名組合方式でファンド組成し、晴れて独立系ファンド会社社長となる。
このような経緯をもつ案件は選りすぐりで、後日すばらしいリターンを出せるときがおおい。一旦リターンをだせたら、その実績とLPとのコネクションを活かして、さらにおおきな鶏をねらいにいく。正のサイクルが回りだす。
ふてぶてしくあろう
生命保険業界では、やり手営業マンたちは昔の恋人や遠戚をもたどって保険契約をとってくる。
同じく、鶏ありきのPE業界では、ファームの大小にかかわらず、主体性、もっといえば、なんとしてでもプライベート案件を引っ張ってきて見せるという、「ふてぶてしさ」が求められる。PE創業者たちも、面接者にはその気配を探す。ソーシング力こそ投資家の真髄だからである。
同期飲み会も1度や2度はよいが、案件ソーシングとファンドレイズの関係性の本質も理解しないKIDsとの無駄酒につきあうのはやめてしまおう。あなたが思うほど、転職組のPEキャリアは安定していない。自分なりに頭手足そしてツテをつかい、ふてぶてしくソーシングに汗をかいてもらいたい。