プライベートエクイティファンドで使う実際のバリュエーション

  • LINEで送る
プライベートエクイティの実務のバリュエーションで最も使うのは、意外と非常に単純で簡単なEV-EBITDAモデルが基本です。またIRRを計算するためにLBOモデルも必要です。

プライベートエクイティファンドで実際に使うバリュエーションとは?

さて、コンサル、投資銀行を経てプライベートエクイティを目指そうという人は、気合を入れてバリュエーション技法を磨こうとしているかもしれない。やれDCF、やれLBO、やれオプションバリュー、やれモンテカルロシュミレーション、、、

MBA卒かマッキンゼーのバリュエーションテキストを買って熱心に読み込んでしまったあなたは、深夜の1時に机に向かいながら自問する。「DCFの時は、分母を適切な割引率に設定しなければならなかったよね?この会社のキャピタルストラクチャーに見合ったWACCは何か、キャピタルプライシングモデルに沿って計算しなければ、etc etc-」

しかし安心して頂きたい。プライベートエクイティの実務で使うのは何といってもEV-EBITDAがほとんどだ。それも、なんとなく8倍が目安であることが多く、12倍とか高い値段を正当化するために、”この会社はEBITDAが二桁で伸びるから、二年のEBITDAベースだと8倍くらい、、、”などと謎の楽天シナリオを描いて、とりあえず将来CFベースだけでも”割安の投資”にもってくために様々な計算式をこねくり回す人も少なくない。

特にディールが少なく、売り手のプライシングがアグレッシブで高い値段を出さないと到底オークションに勝てそうもないときは、総じてPL上の利益成長率が恐ろしく高く設定されたりする。(分子のEBITDAが急速に伸びれば、成長後EBITDAベースのEV-EBITDA倍率は見かけ上下がるため。)

結局のところバイアウトディールのベースはEV-EBITDAなわけだが、これは企業を丸ごと買収するので、デットも買い取る必要があり(まぁ、リファイナンスするわけだが)、バランスシートの右側を全部買い取るために必要な値段が、大体のキャッシュフローの何倍か、というのがバリュエーションの目安とされるためである。

なお、実務上はLBOモデルも当然回せる必要があるが、いったんテンプレートができれば(そもそも会社にテンプレートがあるのだが)あとは個別企業の予測キャッシュフローと割引率と返済する負債額をインプットするだけで、簡単にIRRとエグジット時のマルチプルが出るので、そう恐れる必要はない。ただもちろん、バリュエーションモデルの細部をきちんと説明できるように、財務会計及びLBOモデルのバリュエーションの構造は理解できるようにしておかなければならないのは、言うまでもない。

あと分母のキャッシュフローに関していえば、分子のEBITDAを”Normalize”して調整することも多いので、この点心得ておこう。たとえば繰り延べ税金資産があと3年使えるが、税金は正常時に支払ったと仮定して40%引いておくとか、今は黒字で税金を払っているが、買収対象企業が赤字会社を買収することで繰り越し損失を向こう5年の税金に充てられるので、キャッシュフローを計算するときは税金を減らしておくとか、諸々のキャッシュフローの調整が入るのは、LBOモデルをつくるときの世の常なのである。

末筆ながら、プライベートエクイティのバリュエーションは普通に投資銀行M&A経験者には特に難しいものではなく、また未経験者でも少し勉強すればすぐ理解できるようになるので、そう身構えないようにしていただきたい。

より難しいのは誰でもできる机の上でのシュミレーションではなく、実際に売り手社長ないしオーナーのハートをしっかり掴んで相対案件に持ち込む人間力である。そして、実際に買収した後に適切な経営陣を引っ張ってきてきちんとガバナンスを効かせ、投資家に約束した案件当たり25%のIRRと2.5倍のマルチプルを達成することが、バイアウト案件で成功とみなされるための”目安のグローバルスタンダード”なのである。(外資金融バリュエーション研修参照)