キャリアビジョンとして企業再生のプロを目指す人の、就活・転職4パターン

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キャリアビジョンとして、何故だか「企業再生のプロになりたいです」などと語る人が突然増える、就職活動期。実際はそんなこと本気で思っている人はいないのですが、コンサルや投資銀行を何故目指しているのか、10年後のビジョンを考えた時、無理矢理企業再生のプロに辿り着く人が多いのです。しかし実際に本当に企業再生に携わる仕事がしたいときに、どのようなキャリアパスがあり得るのでしょうか?早稲田大学の学生会員の方からのもない意識溢れるキャリア相談に、回答します。

キャリアビジョンとして企業再生のプロを目指す人の、就活・転職4パターン

早稲田大学 国際教養学部 KNさんより質問

私は、将来、日本の企業再生に関わる仕事がしたいと考えております。
特に、小売り、消費財、ホテルといったより消費者に近い産業で活躍するターンアラウンドマネージャーを目指しています。
企業再生には、財務面と経営・業務面の二つの側面からの改革が必要であると考えています。

M&Aや証券化などの投資銀行業によって、財務面から再生インダストリーに貢献する方法や、戦略立案という形で経営面から再生インダストリーに関わる方法があると思います。また、その2つの融合としてPEファンドという道もあると考えています。

それぞれ事業内容やリスクの取り方は違うと思いますが、ターンアラウンドマネージャーになるということを考えたとき、どの職が最適であるとお考えになりますか。

講師による回答:BS再生からPL再生、そしてDX促進へ

貴方が書かれている内容はほぼ正しく、また小売り、消費財、ホテルは再生ファンドが多く取り組む対象であったりもします。

企業再生のテーマは時期によっても異なります。2000年代前半はバランスシートリストラクチュアリングの真っただ中で、ゴールドマンサックスのASSG(Asian Special Situation Group) や、REPIAといった不動産自己勘定投資部門が大儲けしました。

しかし今や企業再生のテーマはバランスシートではなくPL(損益計算書)の方にあるので、戦略+オペレーション改善の経験がより企業再生キャリアに直結します。(ちなみに2020年代に突入した今では、DXによるオペレーション効率化の能力が、ファンドマネジャーの運用成績に大きな影響を与えていくでしょう。)

しかし企業再生には銀行の協力(債権整理や返済延長)が不可欠なので、潰れそうな企業への法人ローン担当も、企業再生キャリアへ直結する役職の一つです。(ただいまは金融緩和じゃぶじゃぶで、資金繰り倒産はあまりないのですが)

では以下に、各業界について述べましょう。

投資銀行

投資銀行は特にM&Aが事業再生での必要ノウハウの多くを教えてくれるでしょう。
バリェーションや交渉もそうですが、将来のお客となる企業群との関係構築や、将来のサービスプロバイダーとなるバンカーとの人間関係の構築にも役立ちます。

また貴方が幸運であれば複数のディールクロージャーを体験できますし、様々なディールのストラクチュアリングも勉強することが出来るでしょう。

なお、投資銀行部門の上層部の仕事の魅力は、実は長期的には増していきます。

トレーダーなどデータのみに基づく仕事はAIに急速に代替されていますが、複数の分野にまたがる戦略的な仕事が必要な投資銀行部門の仕事は(下っ端の雑用時代を切り抜ければ)、AIに代替されない金融業の数少ない職種として残っていくことでしょう。

戦略コンサルタント

戦略コンサルも再生ファンドで働く人々の主要な前職の一つです。(もちろん、企業再生につながるケースを経験することが重要なのは言うまでもありません。間違っても海外ベンチマークや調査系のことばかりやって3年を過ごしてはいけないのです。)

近年の事業再生はバランスシートリストラクチュアリングと資金注入で何とかなる問題ではありません。

コストカットのみならず、事業の選択や市場の拡大、ワーキングキャピタルの効率化や社員/経営陣の動機付けなど、戦略的・オペレーション的に様々なバリューアップが必要とされています。

実際ターンアラウンドマネジャーとして最も評価される指標の一つが、過去の案件でどれだけEBITDAを伸ばしたか、という点であったりもするのです。
この意味でコンサルでこれらのプロジェクトを経験することができれば、貴方の事業再生キャリアの大きな礎となることでしょう。

コンサルティングファームの中には再生案件の多い、日本国内ではあまり有名ではないものの、グローバルでこの分野で存在感のあるアリックスパートナーズや、マッキンゼーのターンアラウンド専門チームが有名です。

商社

商社出身者も事業再生ファンドで頻繁に目にします。
これは近年の商社は自己資本投資をする投資家としての側面を擁し、かつ実際に事業を回すプレーヤーとしての側面もあり、様々な事業パートナーを探しディールを締結するという意味で、コンサル・投資銀行・事業会社の融合的な役職も中には存在する為です。

なお商社系のファンドも多く、特に相談者様が指摘されている消費財系のセクターでは、伊藤忠系のファンドが本体の強みもあり、存在感があります。

実際に昨今、総合商社で投資ファンドキャリアに進んだ人が、ユニゾンなど独立系名門ファンドに転職するケースも増えてきているのです。

ただし大手商社ですとどうしてもグループの縛りで出来るディールと出来ないディールがあり、また全社戦略の中での位置づけになってしまうため独立性の観点から、独立系のファンドを目指される方がよくいらっしゃいます。

銀行

企業再生で重要なのはなんといっても、レンダーマネジメントの経験です。

この意味で、銀行がどのような意思決定プロセスを経てヘアカット(債務カット)に応じてくれるのか、交渉の御作法はどのようなものなのか、どの部署の誰に話を通したらいいのかなど体得すべく、LBPローン担当なども、若いうちに経験しておくのは企業再生キャリアに繋がる有力な経験となるでしょう。

企業再生のプロは、半沢直樹2の世界ではありませんが債務カットの交渉も不可欠ですし、コベナンツの条件交渉や、潰されてもおかしくない会社に何とかリファイナンスに応じてもらう交渉力など、レンダーマネジメントの経験が不可欠なのです。

(ただし悲しいかな、配属リスクが高く、また上に行くまで果てしない時間がかかるので、この道から企業再生のプロを目指すのはお勧めできないのですが、仮に入れたのが銀行だけだったなどの時は、このルートもあり得る、という事例紹介です。)

どのようなパターンの「企業再生のプロ」を目指すのかを考えよう

私の周りを見渡すと、いわゆる”企業再生のプロ”に相当する方が何名かいらっしゃります。

彼らはPEファームの投資先に経営陣として送られ、企業を立て直し売却したら、巨額のリターンを得て(ターゲットEBITDAを達成したボーナスや、ストックオプションからなる。)しばらく休み、また次の投資先に送り込まれて経営を立て直す、という”経営立て直しのプロ”として活躍されています。

そうなる前のキャリアは、マッキンゼーで長らく働きパートナーになった方や、意外と広告会社で商品のトップラインを伸ばすマーケティングのグルになり、それを消費財企業のバリューアップに活かして投資先を渡り歩く人もいます。

また前の投資先での経験を、類似企業のバリューアップに活かす人や、銀行で債務整理の経験を積み、バランスシート再生のところに特化して活躍するタイプなど、様々です。

漠然と「企業再生のプロになりたい」というイメージを持つ方が多いのですが、どのような企業再生プロが御自身の強みや興味と合致しているのかをイメージしつつ、御自身にあったキャリア選択をされることを、祈念申しております。

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