
外資系金融機関と日系金融機関を比べたがる人は非常に多い。外資系、とくに米系金融機関は、グローバル資本主義の象徴的な機関であるため、容赦なき資本の論理で経営されることになる。つまり稼げる人にはアップサイドを積んで奪い合うが、稼げない人は容赦なく解雇する。これに対し日本の金融機関は、日本のシステムがどちらかといえば社会民主主義色が強いのを反映し、アップサイドは税金と他の社員への分配で限られる反面、ダウンサイドでも山一のように潰れない限り、解雇されるリスクは極めて低い。以下に解説しよう。
外資金融を解雇されて日系に雇われても、日系証券を解雇された人を外資は雇わない!
慶應義塾大学大学院 理工学研究科 基礎理工学専攻 男性より質問
日系投資銀行と比べたときの外資投資銀行の強み(“各国の現地グローバル企業とのトップレベルでの取引を行っているため、グローバルな視点で業務が出来ること”以外でお願いします)を教えていただけませんでしょうか?
回答:日系・外資の違いの本質は、キャリアの”リスクリターンバランス”の違い
投資銀行の日系・外資の違いを一言でいえば、キャリアのリスクリターンバランスの違いといえるだろう。
まず第一に報酬のアップサイドという意味では、(ジュニアの時代は特に)年収がずいぶん違うため、やはり競争的な人材は外資のほうが多い。(ただし、野村がやっているように外資金融並みの年収を数年契約で払うところも出てきている)。
第二にダウンサイドリスク対策という意味では、圧倒的に日系の方が保証が強い。外資系投資銀行も最近は昔のようなアップサイドが減ってきているので、”クビにならない環境で、時間プレッシャーも米系投資銀行ほど感じずにじっくり働きたい、ということであれば、日系を選ぶのもそれはご自身の判断基準次第だろう。
これに対し外資系投資銀行では、1年目のニューヨーク研修が終わったころに早くも解雇される人がいるものである。(もっとも、最近は投資銀行も優秀な人材獲得競争が激化し、以前ほど簡単に解雇されなくなってはいるが)
顧客層の違い:会社によって、得意な地域やアセットクラスが違う
第三に、やはり顧客層が違う。野村はリーマンを買ったが結局北米と欧州でゴールドマンやモルガンスタンレーが有するグローバル顧客層を獲得できず、日系企業がらみの案件が大半になっている。
事業会社のクライアント層に加え、投資家の客層も変わってくる。
勿論、日系の機関投資家の資金は日系証券会社、資産運用会社が深く食い込んでいるのは言うまでもない。(日本の会社や日本の資金は日本の運用会社、証券会社のビジネスにしてほしいという国粋資本主義的な考えを持つ人も、年配の人には意外と少なくなかったりするのだ。おじさんになればなるほど、この傾向が強かったりもする。)
ちなみに外資系の中でも、年金に強かったりヘッジファンドに強かったり、アジアで強かったりヨーロッパで強かったりと、深い関係を有する投資家層が異なっていたりもする。
教育面での違い:MBA行くなら、日系にスポンサーしてもらったほうがトータルで有利?(日経でも政府系のスポンサーが厚い)
新卒の皆さんが興味あるのは、入ったときにどんな教育投資を受けられるか、だろう。
総じて外資系金融は1-2ヶ月のロンドン/ニューヨーク研修がついてくるし、あなたの英語力を向上させるために、年間5000ドルくらいなら英語学校でも会計学校でも、何でもかんでも補助してくれる。(今では中国語学習をしているファンドマネジャーとかもずいぶん増えている)
あと3年とかしてアソシエイトになると、一年でも二年でも、ニューヨークの本社で働く機会が結構与えられたりする。これは東京オフィスでエース人材とおすみつきをもらったあかしなので、その後のレジュメも強化される。
ただ、MBA派遣を狙っているなら、実は日系政府系金融機関からのスポンサーが結構多いのも、意外と知られていない事実である。
日経の政府系金融機関、それこそDBJやJBICは、新卒就活市場では大人気とは言えないが、いざ入ってみると、給料もらいながらMBA留学させてくれたり、たいして忙しくなかったりで、結構いい生活をしている人も多いのだ。
日系から外資を目指す人はいても、外資から日系を目指す人は少ない~クビになった後、再度外資に移るまでの「つなぎ」転職
これまでリスクリターンバランス、顧客層の違い、教育・トレーニング機会について論じてきたが、競争力のある人材は結局のところ、パフォーマンスを出しただけリターンを得られる欧米系を志望することが圧倒的に多い。
正直に申し上げて、外資から日系にいくのは多くの場合、外資をクビになった人たちだ。しかもその人たちはマーケットが回復したら数ヶ月で再び外資に転職してたりする。(また余談だが、外資に戻ってまたすぐ解雇されて、日系を出なけりゃよかった、と後悔している人もそれなりにいるので要注意)
悲しいかな、外資クビになった人の、転職活動期間にレジュメを埋めるために在籍されている日系の会社も珍しくないのが実情である。(ただし最近では日本郵政などの巨大政府金融がゴールドマンなどからMDを雇ったりしているのはご存じのとおりであるが、これは例外といえよう。)
日系から外資を目指す人はいても、外資から日系を目指す人はいない(一部の幹部待遇を除き)~これが抗えない現実なのである。
しかし最終判断はご自身にとって重要な要素次第なので、上記に論じたよう、日系の特に政策系銀行だからこそできることや待遇もあるので、それらを是非ご検討いただきたい。