プライベートエクイティファンドのESGは、CSRと何が違う?

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プライベートエクイティファンドのESG対応の幅広い実態と、CSRとESGの関係について解説致します。

プライベートエクイティファンド各社が国内外問わず、ESG対応に急速にシフトしています。ただこのESG、コンセプト自体は10年以上前から論じられているCSRとかぶさる部分がほとんどです。

それこそ10年前のAIB(Asia International Business)のベスト論文として選ばれたのもCSR関連でしたが、社会的な課題を解決しながらビジネスを行うというのは、別に目新しい話でも何でもないのです。

それではなぜ、ESGという名前になった今、これほどプライベートエクイティ各社がESG対応に躍起になっているのでしょうか?

プライベートエクイティ各社のESG対応の多様な実態とは?

実はプライベートエクイティ各社のESG対応は、まちまちです。某大手ファンドのようにバイアウトファンドだったのに、突然リスクリターンプロファイルもスキルセットも投資家層もかなり異なる再生エネルギー関連に投資するファンドを組成しているところもあります。

また、特に積極的でなかったものも、ファンドレイズの時に海外の機関投資家からESG対応を問われたのをきっかけに、遅ればせながらPRIにサインしてESGバリューアップのトラックレコードづくりの必要性に気付いたファンドもあります。

ただ最後にファンドレイズしたのが数年前で、かなり集めただけにドライパウダー(投資していないキャピタル)が多く、ファンドレイズの必要が当面ないため、昨今の「LP投資家からのESGプレッシャー」に疎いファンドもあります。

またそのファンドはリターンの数字が良くて、他の面で頑張らなくてもリアップ(次のファンドレイズの時もキャピタルをコミットしてくれるLP)が期待できるので、まだESG対応の必要性に関し経営陣が真剣でないという事情もあります。

CSRとESGの違いとは?

CSRとESGの違いを考えると、両者ともに企業の社会的責任に関するコンセプトではありますが、前者はどちらかといえば社会的な正当性を得るためのコスト扱いで、後者は社会的正当性を得ながらビジネスでトップラインもボトムラインも伸ばすといったイメージと言えるでしょう。

この「ESGはリターンを犠牲にしない、ないしそれこどろかリターンを高める」という建前が、ESGに投資家の資金が急速に流入している背景です。

そして国連というオーソリティが出したPRIへ署名する投資家が増え、世界最大のアセットオーナーであるGPIFがそれに加わったことで、一気にESG投資が拡大し、その資金を預かるための運用会社間の新たな競争が始まったのが今のフェーズと言えるでしょう。

本当にESG対応するとリターンが上がると信じているのか?

よく聞かれる問の一つが、「ESG投資はリターンが通常の投資より上がると、本当に投資家は信じているのか?」という疑問です。

これは投資家によりけりですが、ESGの定義はやや曖昧で幅があり、パフォーマンスの計り方も幅があるため、一概には言えません。ESGレーティングの付け方も評価機関ごとに異なるため、同じA社が、格付け機関Xによると高いESG評価で、機関Yによると低いESG評価になることも結構あるのです。

ただ投資家センチメントの中央値を申しますと、「正しいESG投資は長期的なリターンは高まるだろう。」といったところでしょうか。

しかしながら良質のESG案件は多くの投資家が群がり投資するときのバリュエーションが高くなるので、実はパフォーマンスが市場平均を下回る例も沢山出てきているのが実態です。

今後の展開を予測するための理論的枠組み~CSR研究は層も厚く、何か流派を探し出す

では、ESG投資の今後の展開はどのように予測されるでしょうか?ESGは社会的責任を果たしながらの投資活動ですので大枠ではCSRの分野に属しますが、CSR研究は層も厚く幅も広いので、どの理論を適用して考えるのが良いのかまだ研究は定まっていません。

CSR研究は長年存続しているので、経営学の重要な課題として本質的なものであるとみなされているのは間違いありません。

しかしながら論文数も膨大であるため、当てはまりそうな流派やグループを同定し、そのグループでの研究の流れをそのまま前に進めるのか、微修正するのか、否定するのか方針策定をしていくことになります。

CSRムーブメントの延長としてのESGが、CSRの中でどのように位置づけられ、どのような展開を向かえていくのかを予測する理論の構築が、運用会社各社への指針として求められていると言えるでしょう。