
「人々の健康(ウェルビーイング)や人生に、直接触れていく金融」「健康経営」「ESG対応リーディング企業」として知られるアクサグループ。多様性重視のESGリーダー・アクサ生命のビジョン及び新しい企業リーダーシップの在り方に関し、著書「GE世界基準の仕事術」でも知られる、アクサ生命代表取締役社長の安渕聖司氏にお伺いしました。
アクサ生命安渕社長に聞く、リーダーの新しい企業経営リーダーが最も関心を持つのは、「人の成長」:人を育てる喜びに目覚めた原体験
Q: 安渕さんは数々の多国籍企業のCEOを歴任されておられ、日本でも有数のプロ経営者でいらっしゃいます。
ずばり、いま安渕さんが経営者として最もなすべきことはなんだと考えていらっしゃいますか。また、その考えはどのように変化してきましたか。
A:リーダーが最も関心を持つのは、人の成長です。
自分ひとりで出来ることには限りがあります。ですから、自分のチームを作って、チームのみんなが成長することで、自分ひとりで行うよりももっと大きな仕事ができるようになるというのが、組織で仕事をすることの面白さ、醍醐味だと考えます。
リーダーはいわばスポーツチームのコーチのように、それぞれのメンバーの個性・強みを捉えて、組み合わせの中で良いパフォーマンスを出していくものです。
このような考えに至ったのは、前職のGEキャピタル時代にボランティアを始めたことが一つのきっかけです。
それは、養護施設に住む高校生10名程度をフロリダに派遣するプログラムでしたが、その準備段階として、GE社員が3ヶ月間、高校生に英語を教えていました。
当時CEOだった私の、ボランティアにおける役割期待はシニアレベルのスポンサーで、イベントなどの冒頭で挨拶などが中心で、英語を実際に教えるといった現場の役割は割り当てられていませんでした。
しかし、私はあえて、他の社員と一緒に英語を教えることを希望しました。
期間満了後、高校生たちの変化は劇的でした。様々な事情から養護施設にいて、家族が不在のため横の繋がりもなく、チームを組んで何かを達成するという経験がない参加者たちでした。
そんな彼ら・彼女たちがチームを組み、英語を学んで、3ヶ月後にフロリダに行って、難病施設でボランティアヘルパーを務め、さらに日本の紹介をして帰ってくるという経験をしました。
この経験は、彼らを別人のように成長させました。そこで、この年に初めてCEOになったばかりだった私は、人を育てることの喜びとその可能性に改めて目覚めました。
以来、仕事でも、強いチームを作り、次世代のリーダーに育ってもらうプログラムを作って自ら講師を務めてきました。
また会社以外でも、合計約20ものNPO/NGO/学校等への支援・協力・参画を通じて、日本社会におけるマイノリティや社会的弱者へのソーシャルインクルージョンを促す活動や、多様性を活用する支援を精力的に行っています。
そのような経験から得られた学びのひとつは、どんな人でも活躍でき、どんな人でもやり直すことができ、色々なバックグラウンドや属性を持った人たちが混ざり合っている社会の方が良い、ということです。
これこそが自分の軸であると、実感できてきたのです。
今後の目標は、このような活動を自分の10歳~20歳年下の若い経営者たちにも広げていき、巻き込んでいくことです。
全力を尽くしながら、視点を高くしていくことが大切:自分の成長の軌跡が外から見えるか?
Q: 将来、安渕さんのように、いつかは”社長の椅子を用意してお待ちしております”と言われるような人材になりたいと考える若手プロフェッショナルは多いと思います。
数々の多国籍企業からCEOになってくれと頼まれるようになった背景、安渕さんがこのように信頼されるようになった要因は何だとお考えですか?
A.私は、目の前のことに、ひとつひとつ全力を尽くしながら結果を積み上げてきました。
さらに、積み上げていく中で、徐々に視点を高くしてきました。自分がスタートしたところから、何かを成し遂げたら、一段階段を上がる。
上がった先から見える景色は少し違うので、新しい景色のなかで自分が何をすればいいのかというのを常に考えながら階段を上がってきました。そして、自分より上の場所から見える景色を常に想像するようにもしてきました。
このように、自分自身の成長の軌跡が外から見えるかどうか、というのが選ばれるかどうかのポイントでしょうね。
私は、ずっと同じことをやり続けて、成果を上げていくタイプではないと思います。常に変化し続けていくことが大切です。これまで、幸いにも止まったことは無いので。
いろいろな変化の中で、ハードルを乗り越えて、次のフェーズに入っているというのが、ある程度外から見て分かるようにしておくことが重要です。
Q: 引く手数多の中、アクサグループに移籍された理由を教えてください。
と申しますのも、過去どの会社でも社長として活躍されていたにも関わらず、また違う会社の社長になられたモチベーションや経緯が気になります。
また、前の会社では比較的短期間の御在職でした。
A.一つは、自分のキャリアの中には、ミッシングピースがあったこと。それが人々の健康。
アクサのアジアのCEOと話したことに端を発し、自分でも色々調べて行く中で、”人々の健康(ウェルビーイング)や人生に、直接触れていく金融”という保険会社のビジネスがぴたりとはまりました。
もう一つは、私の採用に際して、パリまで是非来て欲しいということで、0泊3日(機中2泊)という弾丸出張でアクサのパリ本社を訪問して会った経営メンバーに惹かれました。
フランスの大企業でありながら、CEOはドイツ人、No.2はアメリカ人、HRはアフリカ系フランス人女性などと多様であり、極めてグローバルな雰囲気でした。ここにジョインするのは面白いと思ったからです。
また、これまで在籍したアングロサクソン系資本とは違った、ヨーロッパの世界観や企業文化を経験できることに価値を感じたことです。
最初のきっかけは、長年知っているサーチファームのパートナーからの1本のメールからです。結果的には、私を名指した指名サーチでした。
ファーストコンタクトとして話したアジアのCEOからは、自分の経歴、中でも過去のクライシス対応や、トランスフォーメーションを成し遂げたことについて評価され、アクサ自体が大きく変化する中、その経験を是非アクサでも生かして欲しいという、強い意思表明がありました。
保険業界が全体として変わってきている中で、アクサ自体はそれよりも速いスピードで変わろうとしており、そのためには業種を問わず、変革を起こせるCEOが必要だと説明されました。
変革が必要であれば、私の出番があるなと、その時思いました。
前職に就いて2年間という短い期間であったという、判断に迷うファクターもありました。
ただ自分が本当にやりたいことであり、かつ、自分ができることが必ずあると確信できるならばやるべきだという考えにたどり着き、入社を決めました。
ESG投資拡大の背景:生態系全体で今の環境を維持する必要性
Q:これまで、フィランソロピー投資、CSR投資と言ったESGの類似概念は、一瞬盛り上がって泡のように消えて行きました。
一方で、ESG投資は持続的であり、かつ、大きく拡大しています。今回のESGは過去の一過性のテーマとどこが違うのでしょうか。
A:機関投資家の動向が大きく影響しています。ESGについてしっかりと基準を定め、自分たちの投資行動に責任を持つという考え方が広まってきました。
同時に、運用においてESGを考慮することが運用成績につながるというデータによる裏付けが出来てきたことから、これが新しい選別の手法として金融業界で定着しつつあるということです。
Q:日本最大の機関投資家であるGPIFが、国連PRI(責任投資原則:ESG投資に関する国際的な投資家イニシアチブ)に署名したことなどから、運用機関にとってはESG投資へのコミットメントが死活問題となっています。そうした「制度化」の影響も大きいのでしょうね。
A:おっしゃる通りです。また、ESGは、お金の流れをコントロールするための枠組みとも言えます。アンチマネーロンダリング・アンチテロに関する国際的な法整備の流れに見られるように、正しい使われ方をされるためのルールが必要です。
例えば、責任投資原則においては、ESGリスクの高い特定のセクター、企業(タバコや化石燃料、兵器産業など)には投資制限が設けられています。
企業にとっても、投資家にとっても、ESGの原則を守らないと必要なお金が回ってこず、事業を継続できないというのは、ESGを推進すべき理由となります。
それに加えて、プラネタリーバウンダリー、つまり、このままでは地球がもたないという声が大きくなってきたことも要因です。
自然破壊により絶滅の危機に瀕している生態系は100万種類とも言われ、海面上昇、砂漠化、干ばつに加え、大雨による土砂崩れなど、温暖化、気候の激甚化・頻発化と言った環境問題を身近に感じる出来事も増えてきました。
当たり前すぎて誰も気にしていなかった、もしくはほっておいても大丈夫だと思っていたが、いよいよ時間がなくなってきたという切迫感が、事業セクターにも伝わってきています。これが、環境問題に真剣に取り組む動機になっています。
特にヨーロッパにおいて顕著ですが、これまでは、環境問題対策の主体は各「企業」でした。
足元では、主語が、企業という単位ではなく、「生態系全体」、つまり、今の環境を維持していくのが、地球全体の幸福に繋がっているとの認識にシフトしてきています。
したがって、投資家自身も、インベストメントのバリューチェーンの一員として責任を持って持続可能な社会に貢献するためにはどのような行動を取るべきなのかを考えることが必要になってきたのです。
Q:ESGのリスクについてお伺いします。足元ではESGブームが起きており、ESGファンドが乱立しています。
社会貢献とインベスターへのリターンを両立させ、当初の目的を達成するファンドがある一方、ESGをうたったはいいが、リターンに繋がっていないと淘汰されるファンドも出てくると思います。今後、ESGの中身は変わってくるように思いますが、どのようにお考えでしょうか。
A:おっしゃる通り、効果測定と、効果のあるESGファンドの見極めが、これからの大きな課題です。実体を伴わない名ばかりの「偽ESGファンド」の存在が問題視されるようになっています。金融庁が、その排除に向けた対応に本腰を入れるとの報道もありました。
これに対する私の考えは、2つあります。
一つは、個別企業は、フィナンシャルディスクロージャーをしっかりとしていくべきということです。
まずは「TCFD (Task Force on Climate-related
Financial Disclosures)に基づく開示」を実施し、もう一歩先は、会計基準において、TCFDの枠組みにも拠りつつ、気候変動を含むサステナビリティに関する統一的な開示の枠組みを採用する。現在は、その進化の途中にあります。
そのような進化の先に、実際にバリューが増えているのかというのがみえてくるでしょう。
例えば、女性活躍推進度合いをX%あげることで、当社の企業価値はY%増えましたと計測できるようになってくる。
そうすると、ROE(Return On Equity、自己資本利益率)と同じように、Return on
ESGが有益な指標になるのではないでしょうか。
また、ESGの取り組みにより、地球環境は良くなっているというのを忘れてはいけないと思います。
金融業界のため、運用成果のためでだけはなく、地球全体のサステナビリティのために継続して取り組んでいくべきだし、そのためのメトリックスはさらに精緻化されていかなければならないと考えます。
Q:ESGは、あえて定義をぼんやりとさせて、解釈の幅を持たせているようにも思えます。それぞれが試行錯誤して、ちょっとずつ何がWORKするのかが見えてくるということですよね?
A:その通り。E、S、Gは、等ウェイトでなく、どこに重みを置くべきか、というのは各社で違うし、それぞれがビジネスの強みのある領域で社会的な価値の共創に取り組むことが求められている状況です。
我々保険業界はリスクの専門家ですが、その大きな前提として、「地球がある程度の平常な状態で長続きする」こととして、50年、100年先を見ています。
Q:そうでないと保険の支払いがかさんできて、保険ビジネス自体がサステナブルではなくなってくるのですね。
A:その通りです。保険そのものが成立しなくなった世界では、各企業は事業それ自体のリスクを自らでとるしかなくなってしまいます。
その意味でも、当社においては環境について特に意識しています。
ESG対応の統一的な基準作成は、的外れ?
Q:最もお伺いしたかったことの一つですが、ESGの統一的な基準の作成に関してはどう思われますか。つまり、その企業だからこそ、解決できる社会問題、課題ってありますね。
どの課題を解決すべきかは企業によって変わってくるので、ESGを杓子定規に測るのはメイクセンスしないですよね。
A:それに対しては2つ回答があります。1つは、ミニマムスタンダードは必要ということです。
例えば、プラスティック削減はやるが、ダイバーシティ&インクルージョンはやらないという選択肢はないと思います。何を達成するかを各企業が自由に選べるというのは、間違いです。
最低限守るべき項目を定めた上で、プラスアルファ何をやっていくのかという世界に持っていかないといけない。そして、その項目については、実態に合わせて、産業ごとに決めていけば良いのではないでしょうか。
現状、必ず実施すべきことのうち、できていない項目については、各社が徐々に認めつつあります。企業は、達成の基準をどう測り、いつまでに何をやりますと、外から見える形で開示しないといけません。
何故なら、それが私たち機関投資家の投資判断の基準であると同時に、社会の要請となってきているからです。
「私は、環境汚染に加担している会社、児童労働を行なっている会社で、働きたくありません。御社がそうでないということを、知る手段はありますか」という人が増えてきています。
会社はESGの情報を開示すべきであるし、課題があるのであれば、それを正していく道筋を示していかないと、社会に受け入れられないし、そこで働きたい人も減ってきてしまうと思います。
一方で、投資家が、ESGのフルセット、究極系をいつまでにやれと各企業に押し付けることをしてはいけないと思っています。
ESG対応は、志のある優秀な従業員に選ばれるためのマインドセットのあらわれ
Q:保険業界では、ESGの取り組みが、世間一般からのブランド認知向上や、世の中のリスクを低くすることにつながるので、ビジネス的にも合理的に見えます。
御社の場合、ESGへの取り組みが、パーパスにも、経済的にも、メイクセンスになるような業界だからこそできることだという見方に対してはどう思われますか。
A:ESGの取り組みについては、直接的なビジネスメリットを得るという考えでやっているわけではなく、会社として純粋に社会的な価値を還元するために行っています。
自分の会社のレピュテーションが悪いままで良い、という会社は存在するでしょうか。
従業員が自分の会社を誇りに思えない会社になりたい、という会社は、存在するでしょうか。
そうではなく、従業員が十分にエンゲージされており、「会社の向かっている方向と、自分の達成したいことが一致している。自分自身の成長の場であり、かつ、社会にも貢献できる。だからこの会社で働きたい」と考える会社になりたいでしょう。
そう考えると、どの会社もこうした取り組みを行っていかないといけないと思います。
ESGに対応してない会社では働きたくないよねという人々がどんどん増えています。
経営者は、志のある優秀な従業員に選ばれるというマインドセットが必要です。
企業に求められる役割・価値観の変化
Q:私たちの活動の原点も同じです。若く、優秀な人が就職するのであれば、その思いを持っている経営者、または、少なくともその方向に向かおうとしている企業に就職しなければ、入社後3年も経てば、悪い方向に染まってしまうのではないかと危機感を覚えています。
A:今ではむしろ、染まらず、やめてしまう人が多いのではないでしょうか。
新卒入社後3年以内の離職率が高いということは、ある意味、その期間は「会社を見極める期間」としてとらえている人が増えているということだと思います。
会社が言っていることと、やっていることがあっているかなということを確かめる意味でインターンを経験し、よければはいり、違ったらやめるというのが一般的な傾向だと思います。
それは逆にいうと、社会に出るのはワンチャンスではないということ。社会に出ると、視野が広がる。
そこでやりたいことが見えてくれば、修士や博士課程で勉強し直すなど、長いスパンと今やりたいことを交互に考えながら色々なやりたいことをやっていく。
そのほうが、社会全体で働いている人のレベルも質も上がってくると思います。
ESGとの関連でいくと、サステナビリティの学位をしっかりとるというのも良いのではないでしょうか。チーフESGオフィサーという新しい役割も出てきています。
企業に求められる役割が変化したきっかけとは?
Q:社会的な要請というか個人の価値観の変容に連動して、企業に求められる役割、企業に対する期待が変化していると思います。
私が子供の頃は、24時間働けますかというリゲインのCMが流れていた時代でした。
その頃は、モーレツに働きお金を稼ぐことこそが、善とされました。そのときに比べると隔世の感があります。
今では、企業は、多様な価値観を満たすことを求められていますよね。そのような変化の変革点となったのはどのようなことでしょうか。
A:一つのきっかけは、リーマンショック(07-08年)でしょう。高い目標を掲げ、それをひたすら追っていくビジネスモデルを突き詰めた結果、金融機関が破綻しました。
行き過ぎた資本主義、ショートターミズム(短期志向)、格差社会の拡大など、金融機関が社会を間違った方向に導いてきたという批判が広がりました。
私が卒業した、“キャプテンズ・オブ・インダストリー(国際的に通用する産業界のリーダーたり得る人材)”の育成機関であるハーバードビジネススクールも、金融危機の反省に基づき、プログラムを一新しました。
欠けていたのは、ソーシャルの視点です。2008年からの10数年で、企業の役割とか、役割認識とか、どういう企業でなければいけないか、どう社会の役に立っているのかというように、問い自体が変わってきたのです。
Q:ありがとうございます。仮に、リーマンショックがなく、日本の場合は東日本大震災がなく、またコロナショックもなかったら、そのような変化は起こってなかったのかもしれませんね。
上位1%が世界の富の大半を持っているというような状況が発生していなかったら、企業に求められる役割、バリューシフトは起こっていなかったということでしょうか。
A:おそらく、これほどまでのレベルでの変化は起こっていなかったでしょう。
さらに、この1年半のコロナ禍の影響は大きいです。若い人も、若くない人も、ひょっとして自分の人生には限りがあるのではないか、どこかで人は死ぬのではないかというのを自分ごととして受け止めた。
その中で、そんなに長くない人生の中で、何をやっていきたいのかという考えにシフトしてきました。
今やっていることでいいのだろうかというのを見直すいい機会になった。在宅勤務が増え、あるいは自分と自分の家族、自分とコミュニティとの関係をじっくり考える余裕が生まれたのではないでしょうか。
企業の視点でいうと、企業の役割は原点に戻ったとも言えます。もともと企業は何故成立していたのかというと、社会に役に立つから、お客さまに何らかの便益をもたらすからだと思います。
そこからスタートし、企業のサイズがどんどん大きくなる中で機能が分化してきました。
しかし、最近では、人々が限界に気づくことによって、企業活動の原点、つまり、会社の存在意義を問われるようになりました。
当社のパーパスは、以下の通りです。
Act for human progress by protecting
what matters.
すべての人々のより良い未来のために。私たちはみなさんの大切なものを守ります。
このパーパスが生まれた背景には、私たちの企業活動が社会のサステナビリティのためという思いがある。
だから、社会・コミュニティに調和してやっていかなければならないという意識があります。
なぜ自社のビジネスに直結しない社会活動に、企業がリソースを割くようになっているのか?
Q:民間企業が、従業員が社会・コミュニティの問題解決に取り組むことについて、予算や時間の面で寛容になっています。
従業員の貴重な勤務時間を、一見、自社のビジネスと直接つながっていない活動に使うことをエンカレッジしているのは、どのような理由なのでしょうか。
A:その考えの元となるのが、当社の場合は、パーパスです。お客さまのため、社会のために、アクサを代表して取り組むことを、パーパスのもとでサポートしていますというのが大きな考え方です。
例えば、過去8年間に渡り、日本ユネスコ協会連盟と組んで減災(災害を減らすための)教育について、当社全額費用負担で取り組んでいます。
日本は災害大国なので、しっかり学ぶことで災害によるリスクを減らし、地域社会の持続可能性を高めるというのは、まさにアクサのパーパスに沿っています。
アクサでのキャリア機会:多様性とインクルージョンの重視
Q:ダイバーシティ&インクルージョン、LGBTQ+にも通じている社長がいらっしゃるということで、アクサのブランドイメージが上がりました。そんな中、御社を志望する方向けにお伺いします。
安渕さんは、どのようなカルチャーの企業を作ろうとしているのか、どのような方が入るとフィットするのかに関して、お教えください。
A:2019年4月1日入社以来、言い続けているのは、
「オープンかつフラットで、多様性を受け入れて、多様性を生かす」
ということです。当社にはもともとそのような考えがありましたが、さらなる浸透に尽力しているところです。
多様性の意義は3つあります。一つは、新しいアイディアを生み出すためには、違った考えを持った人たちが集まってトライアル&エラーを繰り返すことが必要。
ベビー用品の開発部隊が子育て経験のない男性ばかりで構成されていたら、ろくなものが出てこないというのは容易に想像できるでしょう。
二つ目は、色々な属性を持った優秀な方、才能のある方が、「アクサであれば私も働ける」と感じて欲しい。
三つ目は、一歩会社の外に出て、日本社会を見ると多様性に富んでいる。そのような社会で生きるお客さまを理解するためには、自分たちにも多様性がないと、分かり合えない。
また、多様性があるだけではダメで、それを生かすためのインクルージョンが必要です。
そのためには、組織がオープンでフラットである必要があります。アイディアを出しても、拒否されたり、無視されたりしたら、やる気を無くしますよね。
当社では、もうちょっと教えて、深堀りして企画書にしてみて、とオープンに受け入れます。フラットは上下関係がないことです。
チームに多様性があり、意見を出し合っても、毎回最後は結局部長が自分の意見だけで、これでいくぞと決めるとなると、なんのために私達がいるんですかとなってしまいます。当社では、その必要十分条件をしっかりやっています。
また私は、どうしたらパーパスを実現できるかに向かって仕事を考えています。その中で、健康経営に力を入れています。
アクサグループの健康経営への取り組み:社会的健康を保険会社としてサポート
一般的に、生命保険会社の(本社などで働く多くの)従業員は、加入してくださったお客さまと会う機会がほとんどないのです。
年に一回、契約状況についての確認の連絡を差し上げていますが、内容はあまり気にしていないというお客さまが多いと思います。
アクサでは、これは非常にもったいないことだと考えており、お客さまのより良きパートナーとなるという大きな目標のもと、当社従業員とお客さまの対話の機会を様々な方法で増やしています。
たとえば、健康経営の取り組みの一つとして、お客さまである中小企業の健康経営サポートパッケージを作りました。
WHOの定義によれば、健康には、身体、精神、経済的健康を含む社会的健康の3つの種類があります。
身体と精神の健康を左右するのは、睡眠、エクササイズ、食生活、人間関係などです。お客さまとの対話の結果、必要があれば、睡眠サポートや食生活指導サポートを無料で提供するなどしています。
また、私たちは社会的健康を、保険会社としてサポートしています。
人生の様々なリスクをどう考えるか、どう稼いで、どう貯めて、どういう家庭を作って、どういう人生を歩んでいきたいからこのくらいお金が必要ということを含め、自分の人生全体をどう歩んでいくかを考えることを、我々はライフマネジメント®呼んでいます。
そして人生のリスクとアンサーテンティ(保険用語では、リスクは確率が見積もれるもの、不確実性は見積もれないものと区別している)を考えるための仕組みを構築しました。
例えば、30歳で結婚し、35歳で家を買う場合、現状の収支で買って大丈夫か、今の収入がどうなっていくか、両親の年齢、介護は必要か、といったパラメーターをソフトウェアに入れて、シミュレーションします。
お客さま一人ひとりがより良い人生を送るサポートができればと考えています。
もちろん保険自体を買ってもらうことは我々のビジネスになりますが、それはあくまでお客さまがお望みになられたら、必要かつ適切な保障であれば、ということ。
金融商品を提供して感謝されることってそんなに多くないと思うのですが、きちんと分析してもらって保険に入っておいてよかった、と言われる。お客さまに感謝される。当社に来て驚いたことのひとつです。
Q:保険の本質的なバリューとしては、お客さまが気づいていないリスクに気づくお手伝いをして、それに備える手段を提供するというところですよね。
A:それを我々は、よりよく人生をマネージしてもらう、と言っています。ライフマネジメント®です。
Z世代メンバーからのオンライン質問
Q:コロナ禍、変化の大きい時代において、社会的なミッションを掲げる企業のリーダーとして、一番大事にしていることはなんですか。
A:従業員、従業員のパートナーや家族、その方々が安心安全に働ける会社であり続けることです。お客さまの満足度は従業員の満足度と直接リンクしていると考えます。だからこそ、従業員がしっかり働ける場にしていきたい。
だからこそ、従業員、従業員のパートナー・家庭ファーストがすべての前提です。
これは特に災害時に特に当てはまります。災害発生時に対応の順番を間違えてはいけない。
まずは従業員の安否をしっかり確認することがすべての第一歩。お客さま第一と言ってどんなときも仕事しろというのは全然よろしくなくて、危ないときはむしろ仕事すべきではないと考えています。
従業員を守ることができなければ、お客さまは守れません。
Z世代の若者が、ビジネスリーダーとして成長するための指針とは?
Q:新卒で総合商社、からのUBS、多国籍企業のCEOを歴任するプロ経営者となり、さらに20ものNPO/NGOをサポートするという色々な顔をお持ちの安渕さんに、少しでも近づくためにアドバイスを頂ければ幸いです。
A:日本のビジネス界の問題の一つは、ビジネスマンが勉強しないことです。
仕事しかせず、仕事に関係する勉強しかしない、勉強する機会がない。結果として、国際的にはやや低学歴社会に甘んじています(修士、博士号とも少ない)。だから、生涯を通じて、知的好奇心を持ち続け、学び続けることです。Keep learning!
Q:大学卒業後、勉強せずとも会社がなんとかしてくれる時代があまりにも長く続きましたものね
A:本来は、自分の興味とか自分のやっている業務の周りとか、最先端とか、逆に原点とか、いろんなことを考えて勉強する必要があります。
ハッシュタグをつける時代なので、自分につけるとしたら、どんなハッシュタグかというのを考えながら働いてはいかがでしょうか。
私の場合ですと、
#プロ経営者
#日本語英語のバイリンガル
#NPO・NGO活動
#多様性教育の推進(UWC-ISAKなど)
#インクルージョン&ダイバーシティのプロモーター
#LGBTQのグローバル・アライ
#ハーバードMBA
#論語と算盤経営塾アルムナイ
#歌舞伎・文楽通
#書評家(日経産業新聞「私の本棚」に2009年から定期掲載)
のような感じです。
本業に加えて、外国語と何か二つ、掛け算を三つできるようにすると、
なかなかレアな人財になれますよ。