
瀬戸亜耶様プロフィール:サンリオの米国子会社でブランドマネージメント、マーケティングの仕事を担当したのち、妖怪ウォッチのゲームプロパティライセンス営業欧州代表としてパリ、ロンドンを中心に活動。その後INSEADでのMBA留学(フランス、アラブ首長国連邦にて)を経てシンガポールのFacebookに勤める。今後はGoogleの東京オフィスに勤務予定。瀬戸様自身がLGBTQの当事者であること、女性であることと言った”マイノリティ”の観点から”働く”ことについて言及して頂いています。
LGBTにとって働きやすい会社とは?マイノリティ”であることと働くことについて
自分がLGBTだと当たり前に話せる職場環境が大切
Q. LGBTにとっての働きやすさに関して、実際にいらした会社ではどのようなものだったか具体的にお聞きしたいです。
A. 特にFacebookはdiversity equity and inclusionに力を入れている会社だと感じました。具体的には、社内グループにwomen at(女性向け)、pride at(LGBTQ向け)、Black at(黒人向け)などがあり、多様な人々に向けたサポート体制が整っています。
また“当事者ではないけれども彼らを応援したい“人に対するサポート体制や情報共有体制が整っていることも特徴的です。
LGBTQの当事者としては、そのような当事者以外へのサポートがあることで普段も気を使わずに職場で活動でき、助かりました。
日常会話において個人的な話、例えば同性とデートしたと気軽に職場で話せるかどうかと言った仕事には関係ないような要素も意外と大事なんですよね。そう言ったことが話せる雰囲気の職場は精神的にも安全だと感じます。
仲間と築く絆もより強いものになりますし。自分がLGBTQだ!と当たり前に話せる職場環境だったことは、仕事のパフォーマンス向上にも非常に寄与していると感じました。
Facebookでは、マイノリティであることが不利だと感じたことは皆無
Q.なるほど!やはりFacebookやGoogleなどは、日本企業よりマイノリティに対する理解が進んでいる印象があったので、実情を聞けて良かったです。
逆にそのような環境でもマイノリティである事によって不利だった、又は有利だったと感じることはありましたか?
A. 不利だと思ったことはないです。個人が不利有利と感じるかは感情や経験ベースの事も多いと思うので、これは会社というよりかは個人によると思います。ただ、マイノリティが損をすることを極限まで減らす努力をしている会社はあります。
自分が今まで働いていた会社はそのような会社だったため、そこは良かったと感じます。
また自分がLGBTQであるという事を公表しているため、LGBTQだけど職場にはそれを隠しているような同僚から相談を受けたり、そこから交流が始まったりする事はありました。ある意味LGBTQであることが有利だと感じる瞬間です。
悪意のある差別より、悪意のない差別が問題
Q. 有利だと言うお話は意外でした。LGBTQに関する質問が多くなりますが、現代社会のマイノリティへの対応について変わって欲しい部分はありますか?また、当事者が起こせるアクションなどはありますか?
A. 悪意を持った差別よりも、悪気のない差別が問題だと感じます。例えば、女性に対して“彼氏がいるの?“と尋ねる事も、LGBTQにとっては“恋人=異性“という概念を押し付けられているようで窮屈で差別的に感じることがあるんですよね。
英語ではshe/heではなくtheyを用いる表現が浸透し始めていますが、その様に性別は2つに限らないという認識をみんなが持つことが重要だと思います。当事者が出来ることは、置かれた環境によると思います。
ただ、LGBTQが生きやすい環境があるという事を当事者に信じてほしいです。キャリアは自分を肯定的に生きていく為の手段に過ぎないので、そうした場所を皆さんに見つけてほしいです。
日本と海外、マーケティングの違いは?
Q. なるほど。質問の系統は変わるのですが、瀬戸様はアジア、ヨーロッパ、アメリカでマーケティングを行っていますよね。日本と海外でマーケティングの違いはありますか?
A. アメリカに6年、ヨーロッパに1年努めていましたが、それぞれの国によってそのブランドのポジショニングが違い、そこが難しいと感じました。
例えばコラボなどをした時に、そのブランドがマッチするかしないかが市場によって異なったり、国によって異なったりする場合が多かったです。
国を跨いだブランドを展開していくにあたり、グローバルな視点では同じ方向性を向く必要がありますが、それを現地展開していく上ではしっかりとローカライズしていかなければならないことが1番難しいポイントであり、ドメスティックなマーケティングとの違いだと思います。
“女性“であることと働くことについて
Q. 確かに、ブランドの立ち位置が国によって変わると言うのはわかるような気がします。そうした最前線で働く上で、女性であるからこそ辛かった時期はありましたか?
A. LAに引っ越した途端、卵巣の不溶性嚢腫が破裂する病気にかかりました。またその後も再発してしまい、その時期は辛かったです。女性ならではの病気なので男性を羨ましく思ったり、病気になった自分に対して劣等感を感じる事もありました。
しかし、この愚痴をクラスメイトの台湾人の男性にこぼしていたところ、「苦しんでいるのは君だけではない。君は卵巣嚢腫という形だけれども、男性女性関係なく一人一人、異なる問題を抱えている。だから君は他人を気にせず君の問題を克服していけばいいし、その為に仲間がいるんだよ。」と言われました。
自分が抱えている問題に対して劣等感を持つ必要もないし、そうした逆境を前向きに捉えて進んでいく事の重要さに気づかせてもらったエピソードです。
自己開示のし易さは、どのようにして身に着けるのか?
Q. そうだったんですね。瀬戸様はそういった婦人系の病気だったりLGBTQだということだったりパーソナルな部分を明るく話されているので、驚きました。
その様な姿勢はどの様に身についたのか日系企業、海外企業を比べた時に婦人系の問題を話しやすい/話しにくいといった違いはありますか?
A. 会社の違いというよりかは、個人の違いだと思います。Facebookはそう言った話がしやすかったですが、それはたまたま上司が妊娠中の女性だった事や自分もシンガポールに赴任したてで、勝手がわからなかった事もあり、上司に婦人科系の病院を聞いたりしていました。
そういう意味では女性が多い職場は婦人系の問題も話しやすく、働きやすいのかもしれません。ただ一方で、サンリオに勤めていた際にもアメリカ人男性上司に病気のことを伝えていました。なので、男女や企業に関わらず人によると思います。
女性ならではのメリット及びコミニュケーション方法とは?
Q. 瀬戸様は職場でも自分のパーソナルな部分を話されていたのですね。では、働く中で女性ならではの利点だと思ったことはなんですか?
A. 一概には言えないですが、新卒で入ったサンリオの子会社は女性管理職が多かったため“女性だから“共感する部分も多く、decision makerの方と仲良くなれました。
ただ、これから職場で活躍する男女比率の差がなくなるにつれ、男性/女性だから有利不利といったことは減ってくると思います。
Q. では、女性ならではのコミュニケーションツールはありましたか?
A. 私はコミュニケーションにおいてエンパシーが大事だと思っています。また、AIやコンピューターに仕事が移行する中でもエンパシーは人間特有の才能だと思います。
マイノリティの心に寄り添ったり、異文化コミュニケーションをする上でも重要です。ビジネススクールの論文などを見ると、女性の方がエンパシーを感じ取りやすいという研究結果が見られます。
また、特に日本人はエンパシーに長けていると思います。なのでコミュニーケーションにおいて、エンパシーを感じ取りやすい日本人女性は一般的に有利なのではないかと思います。
もちろん女性/男性/トランスジェンダーだからエンパシーが必ずしも強い/弱い訳ではないですが、一般的に強いと言われている女性が自信をもって発揮するべき能力だと思います。
MBA留学とキャリア形成について
Q. 続いて少し毛質の変わる質問になります。瀬戸様は経験を積まれてからMBA留学をされていますが、自身のキャリア形成において、経験では補えないような知識が得られたと実感する場面はありますか?
A. 転職する際に、業界も地域も担当部署もチェンジする事になったので、MBAという分かりやすくパンチのある資格を取得することは有利に働くと思い、留学を決めました。
実際、スキルと自信がついて損することはない!ですし、自分のcompetitive advantageを考えるいい機会にもなりました。就職活動の中で自分のやりたい事は変化したり、その時々で選べる選択肢は意外と少なかったりします。そういう意味で自分の選択肢を広げたMBA留学がなければ今のキャリア形成はなかったと思っています。
Q. 数々の転職、MBA留学と様々な経験をされている瀬戸様ですが、今までの人生で1番踏ん張りどころだな、と思った時はいつですか?
A. 就職先が決まっていないMBA留学中に卵巣嚢腫が再発してしまい、その時は精神的に辛かったです。
ただ、1人で苦しまずにオープンに病気を話したりする事で周りがサポートをしてくれて救われた事が多々ありました。環境の変化、ストレス、不安があった時にそれを共有できる仲間を作ることが1番大切だと思います。
これから社会に羽ばたく就活中の学生に向けてメッセージ
Q. 最後に、就職活動中の学生の私達に、メッセージをお願いします!
A. 2つあります。
あなたの居場所は必ずあります。どんなに癖がある人でも、優秀の定義はそれぞれなのであなたの良さが発揮される場所が必ずあります。
それは新卒で入社した会社ではないかもしれないけれど、探し続ければ必ず見つける事ができます。なので、必ず諦めずに色んな人に話を聞いて探し続けてください。
また、女性同士で争い/蹴落とし合いをするのはやめましょう。男性主導の世界で女性の活躍する場が狭まっていた時代にはくだらない争いがあったかもしれませんが、女性同士が一緒に社会的に活躍する場を増やす事が本当の意味での成功だと思います。“Empowered women empower women”の精神で頑張ってください!
Zキャリアチームインタビュワー・早稲田大学石橋さん感想
瀬戸様はLGBTであることや婦人系の病気であることなど、自身のセンセーショナルな部分を明るく話されているのが特に印象的でした。そしてその背景には、オープンな職場環境で働いてきた経験や、自分の弱みを見せることで周りが助けてくれるといった発見があると感じました。
そうした自分を表現できる環境こそが仕事のパフォーマンス向上にも寄与しますし、瀬戸様は“キャリアは自分が楽しく人生を送る1つのツールに過ぎない“というご自身の言葉を、見事に体現しておられると感じました。
また、キャリアを戦略的に考えるよりもとりあえずやってみるという精神が重要で、そして2つのオプションからキャリアを選ぶ方が現実的と言うお言葉も印象的でした。
その選択肢を増やすためという位置付けでMBAなどのスキルを積むことが有効だという見解は本当にその通りだと感じました。