
顧客から信頼されて長期的に相談役として企業に貢献したい。これは多くの優秀な若手プロフェッショナルが思い描く、キャリアコンセプトの一つですよね。特に、バイネームで指名され、継続的に仕事を得られるようになりたいとは多くの人が思うものです。しかし弁護士や投資銀行、コンサルで、必ずしもそのような顧客との信頼関係を築けるとは限りません。それでは、エージェンシーコストがつきものの業界で顧客から信頼を勝ち得る秘訣は何なのでしょうか?弁護士から投資銀行に移り、コンサル志望の女性からの転職相談にお答えします。
弁護士/米系投資銀行勤務 女性より質問
私は弁護士として企業金融法務に6年程度関わった後、某米系外資系投資銀行でシニアバンカーとして働いています。
ただ、顧客との関係が私の望む関係ではなく、できれば自分の名前を信頼してもらって、お客さんから継続的に仕事を貰える様な仕事を希望しています。
しかしこの点、弁護士、また転職した投資銀行ではなおさら、そのような仕事ではありませんでした。
現在外資系戦略コンサルを志望しているのですが、顧客から信頼されて、継続的に相談役として企業に貢献する、というイメージにあった、顧客との関係を築ける職業といえるでしょうか。ご教授願えれば幸いです。
講師による回答:3業種ともコンフリクトはあるが、フィーが案件実行に紐づく投資銀行は、よりコンフリクトが強い
ジレンマを感じるビジネスモデル
プロフェッショナルファームで働く以上、誰もが顧客から信頼され、自分の名前で仕事をできるようになりたいと思うものですよね。
そして今回ご指摘いただきました弁護士、投資銀行、コンサルの全てが、プロフェッショナルファームにつきものの”エージェンシーコスト”問題を有しています。
弁護士とコンサルはプロジェクトを長引かせて、高額の時給をチャージしたいと思いますし、投資銀行はとりあえず買収か売却か資金調達をさせて、フィーを得ようとします。
ただ投資銀行のサービスが、M&Aないし資金調達ありきのサービスであるのに対し、コンサルの場合はそれらをしないように勧めるのもサービスです。また提案サービスの幅が広いことからも、顧客との利益相反が投資銀行に比べて少ない業務であるとは思います(私は両方の業界を経験しました)。
貴方がお感じになられたように、投資銀行でのサービスが、ある程度顧客に対して”騙す”ような要素があることは、ビジネスモデル上の欠陥として、勤務経験者のほぼ全員が感じたことのあるジレンマではないでしょうか。
これは、トランザクションを仲介することでフィーを得る、という回転型ビジネスモデルである以上、ある程度避けられないことです。
「長期的なお付き合いになる」と思わさなければ、「相手を騙そう」というインセンティブの餌食に?
本来ならばあまりに度の越えた不誠実なアドバイザリーサービスは長期的関係を損ない、顧客から継続的に仕事をもらえなくなったりもするのです。
しかし既に顧客企業が倒産の寸前でどちらにせよ長期ビジネス関係が成立しそうにない場合など、特にこのエージェンシーコストが働くケースが多いように思われます。
どのような仕事にしても、「これ一回限りでおしまい」と思っていると、手を抜いてオーバーチャージされるリスクが高まるのです。
コンサルティングファームの”エージェンシーコスト”と、顧客から信頼されるために大切なこととは~最悪なのが「ふっかける」こと
さて、コンサルティングファームの仕事は時間給チャージでもあるため、どれだけ正直に必要時間を見積もっているかで、顧客からの信頼は大きく変わってきます。
基本的に長時間プロジェクトを延長しようというインセンティブが働きます。(もちろん、2020年初頭までのコンサル活況時は、コンサル側が面白いうえにハイマージン案件を取りにかかるので、この限りではないのですが)
このような業種で顧客から信頼を得るには、一般的にはプロジェクトの初期は特に利益がでなくても安値で受注し期待値を上回り、信頼獲得と長期的で大規模な案件受注につなげることが重要なのです。
これに対し、多くの「二流コンサルタント」は、プロジェクトの最初の”問題発見フェーズ”で膨大な量の問題点をリストアップし、それぞれに対処するにはそれぞれ何ヶ月、、という具合に、ほうっておけば何年もの長期プロジェクトを提案するのです。
ただし現在では顧客側にもコンサル出身者が多数いらっしゃり、また顧客の方々もコンサルを使うのに慣れていらっしゃるケースも多いため、変にふっかけにかかるとその「腹黒い算段」が見抜かれてしまい、長期的に得られたはずの商機も全て失うことになってしまいます。
コンサルは焼き畑形式ではなく、同じ顧客からの「信頼の積み上げ」が長期的な成否を決するのだと心得ておきましょう。
顧客に信頼されるかが決め手~コンサルも弁護士も投資銀行も共通するのは、「期待値を上回ること」に尽きる
エージェンシーコストのあるビジネスモデルはさておき、コンサルタント個人として顧客との信頼関係を継続的に築けるかどうかですが、これはひとえに貴方がどれだけ、顧客の期待を上回るパフォーマンスを出せるかに依存するでしょう。
バイ・ネームで信頼してもらえ、継続的に相談してもらう基本は、毎回のプロジェクトで期待以上の成果を出し、かつ顧客の利益を最優先している、と顧客に信頼されるかどうかにかかっているのです。
プロフェッショナルとして働く以上、この「顧客の利益を最優先する」(顧客の利益とは何か、顧客とはそもそも誰を指すのかという哲学的認識の深さも含む)という姿勢が伝わっているかどうかで、バイネームで指名されて継続的に相談してもらえるか、単発の仕事で終わるのかが決まるのです。