プライベートエクイティ転職後の実務・投資委員会編~赤っ恥3大要件はコレだ!

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プライベートエクイティ転職志望者の多くは、実際のプライベートエクイティ社内の日常の仕事内容について、具体的なイメージをつかめていないことも多いもの。投資チームにとって最も大切なのは、何といっても「投資委員会」でのパフォーマンスです。これは本業のコアであるのみならず、ファーム内での印象を左右するからです。出張が多いPEファーム内では、投資委員会での印象があなたの評価を大きく左右します。本コラムでは、プライベートエクイティ投資委員会で「赤っ恥をかく人」と「尊敬をされるひと」の差を徹底検証します。

プライベートエクイティ投資委員会で「赤っ恥をかく人」と「尊敬をされるひと」の差を徹底検証

見事にプライベートエクイティ転職を果たした人は、その出張の多さに驚くかもしれない。所属が投資チームであれば、案件ソーシングや度重なる交渉、そして投資先モニタリングで投資先や投資先の所有する海外工場などに出向かねばならないし、IRチームは、LP投資家対応や会合で、いろいろ海外出張が多い。

加えて、パートナーたちは3週間などと休暇で日本からいなくなるひともいたりする。その休暇と本人の出張が連なれば、時には2ヶ月以上ろくにオフィスで顔を見ないこともありえるのだ。

そんな中、社内一同が最も顔を合わせる可能性が高いのが投資委員会(Investment Committee; IC)である。ICというものは、投資判断をするとき、モニタリング状況の報告を受けるとき、Exit判断をするとき、そして新規案件ソーシングの状況報告を受けるとき、などに逐一開催される。末端アソシエイトから創業パートナーまで勢ぞろいする場が、このICといえよう。そしてこの場こそ、社員のパフォーマンス評価が形成される場であるといえる。

プライベートエクイティファームが実施する年次パフォーマンス評価(→昇進やボーナス、そしてキャリー授与の外形基準)は、その一年間のあなたの貢献実績、担当案件チームからのフィードバック、及び案件ではあなたと接点のなかったパートナー・ディレクターたちによるICでのあなたの印象、で構成されるといっても過言ではない。

そこで、本コラムでは、プライベートエクイティのICで「恥をかくひと」と「一目置かれるひと」の差について、著者の経験をもとにご紹介する。

恥をかくパターン1:評論家屋さん

あなたがせっかく発言をしてICでの議論に貢献したいとおもっても、「反論の余地はないが目前の課題の解決にもならない抽象的な正論」、を決してぶちまけてはならない。

まず、それは同じ部屋にいる誰にでもできるから、意味がない。そして、20人とかが一同集まる大切な時間に、全員がそれに耳を傾けるだけで時間浪費と機会ロスになる。

だからこそ、投資先が債務弁済危機に陥った話題で、「最近マーケット環境が怪しいので、レンダーとは細かなコミュニケーションをとり、我がプライベートエクイティファームとしてもレンダーから追加増資を迫られないよううまく立ち振る舞わなければならない。」などという所見は自分の中にしまっておこう。みんな、それを分かって最善の具体策と複数シナリオを吟味しようとしているのだ。

そして、時価総額35億のソフトウェア系企業の案件をだれかがソーシングして全員が検討しているときに、「それってミッドキャップ・コントロール投資バイアウトのテーマでLPに説明しているうちにとって逸脱した案件ではないですか」と評論してもいけない。それを俎上に挙げた以上、わかってても「完全にアウト」出ない限りはそれを検討しなければいけないくらい案件開拓がうまくいっていないか、又はリターンを出せる特別シチュエーションかもしれないのでその前提であなたは発言すべきなのだ。

「評論家屋さん」の衝動にかられたら、トイレに立ってもいいのでぐっと堪えよう。

恥をかくパターン2:ツメの甘いアピール屋さん

ホラを吹きすぎて信用を失う「オオカミ少年」はどの組織にもつきものである。それはプライベートエクイティも、例外ではない。

「XYZの社長と木曜に夕食しまして、いい感触です。また今月中ゴルフも行く予定で、先方もすごい乗り気でほぼ毎日LINEでやりとりする状況です。」「ABCの社長がじつは認知症らしく、後継者がいないというので私の中高同級生のつてで今週博多にいって会いにいく予定です。」「前期EBITDA80億で負債ゼロの古紙販売商社の常務取締役とつながりました。ほとんどメイバンク出身の取り巻きが経営を牛耳っているんですが、92歳で支配株主である社長のお母様と会わせてもらえるよういま打診中です。」

ここで、あなたに悪気があるかどうかは問題ではない。問われるのは判断力だ。投資の世界での感覚として、これは今後本当に案件化するだろうか。それとも、相手側からすればまだまだ社交辞令の挨拶をしたにすぎず、結局はフェードアウトする可能性も高いとみるか。このリアリズムあふれる状況の目利き力なくして案件の「つて」ばかりを公然とアピールすると、あなたはICで「そういうことを言えちゃうひと」とみられ、オオカミ少年化していく。

ツメの甘いアピール屋さんを、IC参加者全員が口には出さないが見抜いていることを、肝に銘じよう。

次に、尊敬されるパターンを2つ検証する。

尊敬されるパターン1:ピンポイントの切れ者

尊敬されるIC参加者とは、いわゆる評論家とツメの甘いアピール屋さんの真逆といえる。必要なときに必要なことを、手短に表現できる切れ者だ。

証券会社がある投資案件をもってきたとしよう。それは、魅力的なヘルスケア器具の製造メーカーで、大手電機メーカーからのスピンアウト案件なのでネームバリューも高い。ICとして入札参加意志を確認し、価格レンジの議論が進みつつあるなかで、「我がファンドは温泉旅館と学習塾でしか高リターンをだしたことがなく、知見もそこが高いのに、うちがこれをハンドルできる強味は何なのか。一度手を出した類似案件は、8年前の2号ファンドのとき失敗したではないか。」

こうして切れ者は、ブランド案件の魅力に前のめりになるIC全体に対し、過去の経験とLPに求められる同社の「GP像」を挙げて牽制をかける。というのも、資金調達の際、プライベートエクイティは「明確に定義された投資テーマ」によって同業他社と自社を差別化することを求められる。たとえ目先の投資リターンがでても、それで次号ファンド調達時に投資テーマの再定義に支障がでるくらいなら、それはLPの資産配分のエクスポージャーを不明確にすることにほかならず、GPとしては考え物なのである。

評論家でもなくツメの甘いアピール屋さんでもない鋭い切れ者は、いい意味で空気を読まずにそこを指摘する。

尊敬されるパターン2:救世主

ICで一目おかれるもう一つの例が救世主的存在だ。

たとえば、大きな経済危機がおきて調達中の資金が全然集まらない時や、案件が見つからないときに、ものすごい力技で事態打開のきっかけをつくってくれる大重鎮である。ここまでいくと政治の世界さながらなのだが、事実、MBOを渋っている創業社長に「Yes」と言わせたり、そもそも売りにでていない案件をバイアウトに持ち込む「クロージング力」をもつひとが、プライベートエクイティ業界には、いる。

もう座って呼吸をしているだけで、ICでは尊敬される領域だ。実際私がICでそのシーンをみたとき、その人の纏うスーツや靴までが洗練されて見えたものだ。

自分の具体的貢献シーンをイメージせよ

結局、本質以外のところでしか勝負できないひとは自然に炙り出されるのがプライベートエクイティ業界である。ファンドビジネスは息が長く、慌ただしく忙しくもならない。それでも、ポジションが上の人ほど周りの言動をしっかりとみているし、貢献しない者はすぐに見抜かれ、いずれ淘汰される力学がファーム内で働く。

上記のようにあなたがICで活躍するにはもちろん相当な努力と才能、そして経験が必要だ。しかし同時に、自分ならではの強味は誰にでもあるはずだ。プライベートエクイティ転職後、自分は主体的にどう動き、他人にはできない何をやることで貢献していくのか。そのイメージをしっかり具体化したうえで、プライベートエクイティ面接そして将来のICに臨んでもらいたい。