プライベートエクイティ転職:いきなり売上5年分確定、というPEビジネスを知れ

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PEビジネスの本質を的確に理解されているでしょうか?PEでは、ファンド総額に対し、2%前後のマネジメントフィーを毎年徴収します。投資期間の5年間は2%程度、その後の回収機関の5年間は年間1%程度が一般的です。このことは、ファンドレイズが成功した途端、実にファンド総額の15%は自社の売り上げになること、また投資家は元本の15%を失うことを意味します。以下では長年のPE勤務経験を有する現役のPEプロフェッショナルが、PEビジネスモデルの本質の意味合いを詳細に解説いたします。

「PEと投資銀行の差」は、PEが自己のバランスシートを使って企業買収するのに対し、投資銀行はあくまでその仲介役。こう思っているひとは、少なくないだろう。そしてこれは、間違っていない。

しかし、実はこれは、PEと投資銀行の差の「全体」を表すわけでも、「本質」を表すわけでもない。そして、PE面接でのあなたを、「インプレッシブ」にも決してしない。

PE志望のあなたは、最終的には必ずPE経営者に採用判断をされる。だからこそ、PE経営者目線でPEビジネスの本質を知っておいてほしい、という趣旨で今回は本コラムを掲載する。

ずばりその本質とは、PEファンドをひとつの事業会社に見立てた場合、PEは「ファンドレイズしたら売上5年分がいきなり確定し、ポートフォリオ企業売却価格次第ではさらに売上が見込めるオモシロいビジネス」という点なのである。

以下、より詳細にみていこう。まず、これからPEとしてファンドレイズをするとする。

PEだろうとVCだろうと、1号ファンドのレイズはとにかく難しいし、ファンド創業者は例外なく、それこそ「泥を飲む」経験をしている。(余談:だから、「一号ファンドなのに、まさかあそこまでの金額を調達できた理由をぜひお聞きしたいです。アンカーをやってくれるLPが確定するまでに、どういった部分で一番ご苦労なされましたか?」は、50億以上の1号ファンドのファンド創業者なら、懐かしくも聞かれて嬉しい面接質問である。)

とにもかくにも、LP投資家からファンドコミットメントをもらうと、さっそく投資を実行していくために、PEはファンドを「クローズ」させる。

これはLPとの契約上、「いまは合意した金額を将来振り込むというコミットメント表明だけども、うち(PE)がCapital Callをかけたら無条件にその金額の範囲内で指定の口座に振り込んでもらいますからね」という規定を法的に有効化させる意味をもつ。

100億ファンドを目指すPEファンドが60億のコミットメントを集め終わり、残りの40億にはもうすこし時間がかかりそうな場合は「ファースト・クローズ」といったように一旦60億でクローズをして投資を始める場合も多々ある。

いささか料率に濃淡はあっても、この「クローズ」の時点で、それ以降5年の期間、PEは運用報酬としてコミットメント総額の2%を毎年徴収できるのだ。

100億ファンドなら、これだけでも、投資案件のソーシング状況如何にかかわらず(極端にいえば、仕事すらするかしないかにかかわらず)、いきなり毎年2億円の報酬(PE売上)を5年間分保証されたことになる。

この収益安定性にこそ、「なんかPEのひとって精神状態よさそう。」とか「むしろあまり仕事してなそうなのにやたらと羽振りがいい」といわれるようなオーラ形成のドライバーになっているのである。

そして、50億で買収した案件が後日150億で売れようものなら、その差額100億に対する20%を、「キャリー」(成功報酬)として追加的にPEは徴収する。

Waterfallといって、キャリーを計算するまでに他の投資で損失を確定していたらその金額分差っ引くとか、キャリーがPEの手元に入るまでにはファンド内のポートフォリオ全部を売却して全体のパフォーマンスを確定させてからにするとか、いろいろな詳細条項が交渉の末予めファンドレイズの際にLP・PE間で取り決められているのが常だが、大まか、フィー2%キャリー20%がPE経営者にとっての「お金の流れ」なのである。

PEのパートナーでなく、アソシエイトやディレクターでPEに転職するあなたには、直接的には、コンサル時代や投資銀行時代に毎月給料をもらう点でこの違いは感じないかもしれない。

ただし、この経営目線でみた「お金の流れ」こそ、ビジネスの本質を決め、その本質への理解度が、PEへ転職しようとしているあなたの面接パフォーマンスを左右するのだ。

たとえば一例を挙げると、投資銀行ではリーグテーブルにのることがその次の案件獲得のためには重要だし、なによりリテイナー報酬よりも成功報酬に収益源を依存している。

だからこそ、「より大きな時価総額案件を、より確実にクローズに持ち込む。そのためにはあらゆることをやる」方向に強力なインセンティブが沸く。

一方でPEは「2%のフィーがもらえるので少しでも大きなファンドサイズを調達したいのはやまやまだが、仮にまぐれでクローズできても、そのファンドサイズに見合う数と規模で、リターンをだせる買収案件のソーシングができなければ、もう二度と次号ファンドは調達できない。」という思考回路が強烈に働き、一種の規律になる。

これを理解して面接に臨んでくるひとと、「PEって自己勘定投資なんで、ぼくやってみたいんです。」という、コンサルや投資銀行で睡眠3時間なのがイヤなだけのひとがいいそうな表面的な志望動機を述べくるひととの差が、歴然であることはこれでおわかりだろう。

PEはファンドクローズしたら5年売上確定のビジネス。

この意味合いをしっかり頭に叩き込み、事業理解を「自分の本音」にまで落とし込んだうえでPE面接に臨んでもらいたい。