
経済産業省から優秀な若手官僚の転職が増えています。これは、ミレニアル世代の若手官僚は旧態依然とした年功序列と30代でも続く下済みに耐えられないこと、民間グローバル企業と比べた時の若手時代の成長カーブと給与に雲泥の差があること、最も優秀な人材が入省を希望する時代は終わり、入省した最も優秀な人材ほど税金で海外留学したあとはスグないし、数年後に転職することが挙げられます。以下では経産省で働くリスクを計算し、その機会費用の大きさと、転職したほうがいい官僚の特徴を解説致します。
経済産業省からの転職のススメ~経産省で働き続ける、7大リスクを計算しよう
経産省若手キャリア官僚の大量退職が報道されています。
こちらの報道でも書かれているよう、旧態依然とした年功序列に嫌気がさし、脂がのっている年齢の間に民間で、社会問題を解決する主体として力を発揮したい若手官僚が増えているのです。
実際に私の周りを見渡しても、経産省は実は優秀で魅力的な人材が多く、国や社会のために貢献したいと純粋に思っている人もいるのですが、やはり転職希望者(及び転職した人)も増えています。
以下では、経済産業省での仕事がどのような人に向いていて、逆にどのような人は早期に退職・転職したほうが良いのかを考えるための、10ポイント(3大メリットと7大チャレンジ)を解説致します。
1.スケールの大きな仕事ができる
経産省では一国の企業全体に影響を与える、スケールの大きな仕事をすることができます。
実際に私の友人も近年の働き方改革やAI政策を担当してきましたが、経産省で産み出す政策が、良くも悪くも国全体にインパクトを与えます。
ただし、実際の受益者の顔を見た手触り感を求めていて、自分が関与した法令が世に出て新聞に載る、といったことが嬉しくないタイプの方には、全く訴求しないメリットとなります。
2.多様で新しい分野の面白い仕事に参画できる
基本的に1~3年で新しい分野に担当が変わるため、常に新たなテーマで飽きずに仕事をすることができます。省庁の仕事の中では遣り甲斐を感じている人が最も多い省庁の一つです。
しかしながら特定分野の専門性やスキルは身につかないので、調整力、よく言えばプロジェクトマネジメント能力がつく程度ですが、この意味で”政策分野でのコンサルファーム”と呼べるかもしれません。
(コンサル同様、短期で多様なプロジェクトに参画し、専門性は身につかないが、プロマネ能力は、身に着けられる人は身に着けられる)
3.税金で、海外MBAやロースクールに留学する機会を貰える
報酬が少ないと不満を言う人は多いですが、若手時代に税金で、給与を貰いながら現地での生活もみてもらいつつ、2000万の学費を出してもらえる組織はそうはありません。
実際に多くの若手官僚が、トップビジネススクールやコロンビア大学の政策大学院、またハーバードのケネディスクールなどに留学する機会を得ています。
ただせっかく得た刺激も、転職時期を間違って40近くまで長居してしまえば、その後の民間企業への転職が極めて難しくなります。
コロンビアまで出て、成れの果てが公益法人に天下って9時5時の生活では、物寂しいですよね。
長期的、そして相対的な通産官僚メリットが低下していく中、以下では経産省から退職するキャリア官僚の7大転職動機をまとめます。
1.組織の役割は失われてきている~組織のトップ・次官の力も低減
日本企業の成長テーマが海外進出と新規イノベーションにシフトしていく中、経産省で出来ることは限られており、官僚組織の役割が低下してきています。
またかつてのような政策立案に主導権を発揮できる時代は終わり、官邸・政治主導で国民の全体最適というより、特定の政治勢力の為の仕事も数多くあります。
このことに失望し、優秀な経産省若手官僚が外部に転職するようになっています。
2.特定のスキルや専門性は身につかず、長居すれば民間で働くのは無理に
上述の通り、一つの領域に長期的にコミットするわけではないので、特定分野の専門性やスキルは身に付きづらいです。
かつ現場から距離のあるマクロな話を扱うので、現場感覚が身につかず、お客の顔が見えず、いざプレーヤーとしてビジネスをするときのスキルはほぼ、身につきません。(長年経産省にいると、40近くにでもなればもはや民間で働けない人になっているリスクが高いです)
3.低い給料~商社や邦銀の半分、コンサル・投資銀行の三分の一
他の官公庁同様、激務の割に給与水準は相対的に低いです。
30歳時点では総合商社の半分、投資銀行の三分の一程度の給与で、大量の雑務を深夜までこなさなければなりません。
報酬は二の次で、(実際に社会貢献できているかはともかくとして)国全体のために働いているんだというテーマに高揚感・満足感を強く感じるタイプでなければ、グローバル企業で活躍する大学同期に比べて、著しく低い待遇に甘んじなければなりません。
4.長時間労働(特に国会対応)~働き方改革の旗振り役が、働き方改革できていない
官僚は労働時間が長いです。特に国会会期中は深夜残業も当たり前で、その割に本質的な仕事というより大量の雑務や紙の資料作成、答弁作成に追われるので、家庭との両立が難しい人も数多くいます。
「働き方改革の旗振り役」であるはずの通産省が、働き方改革と程遠いことに若手官僚の多くが問題意識を抱いています。
5.厳格な年功序列と、愚かで横柄な政治家対応~時には下僕のような扱いも
これがミレニアル世代官僚には最もつらいチャレンジの一つですが、厳格な年功序列と上に逆らえない上意下達の官僚カルチャー、また愚かで横柄な一部の国会議員による下僕のような扱いに憤慨し、経産省からの転職を決める若手官僚も増えています。
(私の友人で、年次は違いますがそれぞれトップ入省の2人も、数年で転職してしまいました。今は某コンサルファームとアカデミアで楽しくやっています)
6.人材の質の低下~トップクラスの人材は志望せず、採用人数も減っているので先輩・上司だらけの、トップヘビーの組織形態に
世間的な官僚への強い風当たりと、政策立案の主導権、人事の主導権を政治家に奪われた今、企業と官邸の調整役に甘んじる将来を悲観し、もはやトップクラスの人材は中央官庁を志望しなくなりました。
実際に国家公務員試験受験者数も半数以下に激減し、採用人数も減らされる中、解雇が無いためシニア官僚の数だけは多く、結果的に先輩と上司だらけのトップヘビーで上が詰まった組織に魅力を感じず、外部に転職する若手官僚が増えています。
7.機会費用の増大
通産省は、若手時代に数年過ごすのであれば、名刺を利用して政財官に人脈を築き、(本当に役に立っているかは疑問でも)スケールの大きな仕事に就き、給料は低くても海外留学を税金で賄うことで、トータルパッケージはメークセンスするキャリアです。
しかしながら辞め時を間違うと、組織としての役割は低下していくのに激務は続き、給料はたいして上がらないのに民間企業では使えない特殊スキルと調整能力しか身につかない危険があります。
よく経産省から優秀な若手が転職するので国家にとっての危機だという人がいますが、実際は優秀な若手に成長カーブの低い仕事を押し付ける官庁に居続けるほうが、その個人にとっても社会にとっても大きなリスクであるように思えます。
一般的に、✔その組織の役割が低下し、✔リーダーに魅力を感じず、✔待遇と労働環境が他の選択肢に比べて劣っており、✔かつ改善が見込めない場合、市場価値がつく間に転職していく人が増えるのは、当然の展開なのです。
以上、経産省からの転職を考える方の御参考になれば幸いです。