
金融面を担うコンサルはどのような役割・業務を行うのでしょうか。投資銀行との違いはなんでしょう。本質的にはビジネスモデルの違いに関連付けられます。金融機関は買収やトレード実行に対してフィーを得ますが、コンサルは時間チャージです。したがって、その案件に投資すべきかどうかや、投資した後にどう価値を上げるかは、コンサルの仕事です。また根本的には、株主が客なのか、事業会社が客なのかという違いも指摘できるでしょう。
京都大学大学院
金融面も手がけるコンサルファームでは、どのような業務を行うのでしょうか。投資銀行と同じような業務も行っているのですか。
講師からの回答
コンサルは投資前のデューディリジェンスや、ポスト・マージャー・インテグレーションが多いです。
投資銀行と同じような業務を行っているか否かを聞かれているということは、”コンサルに入っても金融機関に入るのと同じような経験・勉強ができるのか”というのが本質的なご関心事項かと思いますが、その違いの本質は、ビジネスモデルの違いに求められるといえるでしょう。
金融取引の伴わないアドバイザリーをコンサルは提供~一番多いのが投資前のデューディリジェンスと、投資後のポストマージャ―インテグレーション
一言でいえば、資本(エクイティでもデットでも転換社債でも構いませんが)取引を実行するのは投資銀行、その決定の検討と、取引後のオペレーションに参画するのがコンサルタントと大別できるでしょう。
投資銀行は、案件実行に対してフィーをもらうため、とにかくいらない会社を買わせたり、「これ売ったら何も残らないでしょ」という虎の子子会社を売る説得をしたり、また何が何でも転換社債をグローバルオファリングさせたりと、「そんなこと別にやらんでも、ええでしょう」という取引を「アドバイス」することも、残念ながら多いのです。
言い換えれば、買収後にその子会社が壊滅し、買い手の財務も崩壊しても、買収額の2%だかをフィーとして得た投資銀行にとっては、しばらく業界での評判が悪くなること以外、知ったことではないのです。
これに対し、案件の実行によらず時間チャージのコンサルタントは、この意味においてより中立的なアドバイスができるはずだと期待されます。
コンサルならではのポストマージャーインテグレーションですが、これは組織や文化の違う企業を合併させたあと、オペレーションのマネジメントや組織再編、人事制度の統一等に、その分野に実績のあるコンサルが投入されることも多いものです。
ここで難しくも面白いのは、会社によっては、判断基準とする価値観の優先順位や意思決定の仕組み、スピード感、権限移譲の度合い、本社の介入度が異なるため、このインテグレーションがなかなかうまくいかないことが多く、M&Aの多くが失敗するという所以です。
企業合併や企業買収後の人事制度の統合や両チームの管理職の統合、意思決定のミーティング設計や頻度など、二つの組織が一つになってもうまく回る仕組みづくりは非常にチャレンジングなものなのです。
これらコンサルが提供する金融アドバイザリーが投資銀行のサービスと違うのは、資本取引のエクセキューションにも関与しないということです。(金融取引に関与するなら、ライセンスが必要でその時点で金融機関になる。)
バリュエーションアプローチの違い:投資銀行VSコンサルティングファーム
なお、バリュエーションに関しては、コンサルは”理論的にあるべき価格”をロジックをこねくり回して説明するのに対し、バンカーは”結局市場で取引される価格はこれだから、それを正当化するためにモデルをこねくり回す”という作業を行います。
マッキンゼーが出している企業価値評価のテキストに見られるよう、アカデミックすぎるというか理論的過ぎるというか細かすぎて、ちょっと金融バリュエーションの実務とかけ離れてしまう傾向があります。
ただ近年では、大手ファームでは大手投資銀行経験者も人員に顔を連ねているため、アカデミックに走りすぎない、実務的なバリュエーションも行われます。
つまり、結局のところ売り手と買い手の最高責任者と飲んで、こっそりいくらくらいが落としどころか聞いて、それを正当化するもっともらしいモデルをつくる、という”オトナの作業”のことを指します。
コンサルと投資銀行の向き・不向きとは?
最後に、ご質問者様の質問の意図であろう、”結局、金融アドバイザリー業務をするならコンサルか投資銀行、どういうタイプならどちらを選ぶべきか?”という問いに答えたいと思います。
やはり大きな違いは、ビジネスモデル上金融機関はリスクをとりますが、コンサルティングファームは基本、投資はしないので、バランスシートリスクがほぼありません。
またエクセキューションが伴うので金融機関は比較的ルーティーンワークが増えますが、コンサルは(一部エクセキューションもするとはいえ)新しいプロジェクトがたくさんあるので、飽きにくいのは事実です。
また金融は数字とエクセキューションを伴うので、細部への注意がきちんとできる人でないとミスが多くなります。この点コンサルは、10年後のビジョンなどふんわりしたプロジェクトも多いので、意外とおおざっぱな人でもそれなりに活躍の場はあるのです。
最後に究極的には、誰からお金をもらうのかという違いもあるでしょう。投資銀行は、事業会社からフィーをもらう仕事もありますが、基本的には投資家(事業会社が戦略的投資家になることも含む)から手数料をもらう仕事です。
これに対しコンサルは、投資家からではなく事業会社経営陣からフィーをもらいます。もちろんそのお金は投資家のものですが、直接的な意思決定者は事業会社の経営陣なのです。このことが、究極的には投資家を喜ばすためのサービスなのか、それとも経営陣を喜ばすためのサービスなのかという本質的な違いに繋がっていると言えるでしょう。