
プライベートエクイティファームの上場は、一般的にはLP投資家に嫌われます。これは、PEファーム自体への投資家と、PEファームが運用しているPEファンドへのLP投資家のベスト・インタレストにコンフリクトが生じるというのが、最大の理由です。たとえばファンドへの投資家としては、もっと保有期間を長くしてエグジット価値を高めたいけど、上場株への投資家としては短期的なリターンが欲しいので早く投資先を売ってほしい場合等々が、典型的なコンフリクトのパターンです。以下ではその実態を詳細に解説致します。
プライベートエクイティファームの上場は、顧客(LP投資家)に嫌われる!
KKR、ブラックストーン、EQT等々、海外のPEファームは数多くの大型上場をしてきました。
このPEファームの上場というのは、投資先の上場ではなく、ファンド自体を運営しているGP(General Partner)カンパニーの上場です。
これらPEファームの上場は世界的には珍しくなってきましたが、日本の独立系PEファームが上場したというのは、いまだに聞いたことがありません。
実は、中にはそれをもくろんでいる有力ファームもあるのですが、そのPEファームが運営しているPEファンドのLP投資家からしてみれば、コンフリクトが多くてできれば止めてほしいことなのです。
それでは、PEファームの上場がLP投資家に嫌がられる理由を、PEファンドへの転職志望者の方の「PE業界理解」に繋げながら2点、論じたいと思います。
1.LP投資家と、GPカンパニーへの投資家の間のコンフリクト
LP投資家の利益とは、自分が投資しているファンドのリターンの最大化です。
仮にプライベートエクイティファーム“ストロングパートナーズ”が、ファンド1号(500億円)ファンド2号(800億円)ファンド3号(600億円)を運用しているとします。
LP投資家のあなたは、ファンド3号へ出資しています。
しかし、ファンド3号のファンドレイズ中は、ファンド3号のリターン最大化に総力で取り組みますと言っていたストロングパートナーズの皆さんが、突如ストロングパートナーズ自体を上場させると発表すると、どう思われるでしょうか。
GPカンパニーであるストロングパートナーズの株式を買った上場会社の株主は、ストロングパートナーズ自体の利益最大化を、投資先に求めるようになります。
これは、ファンド3号の利益さえうまく出ていれば、他のことは優先しない貴方と、「インタレストの異なるステークホルダー」が出現することとなります。
例えば、ストロングパートナーズ全体の利益増加に関心がある投資家は、ストロングパートナーズが4号ファンドや、異なる戦略のファンドを設立し、利益の源泉を増やすことを支持したいと思います。
しかし3号ファンドにしか投資していないLP投資家は、「余計なことをせず、3号ファンドの運営だけにリソースを特化してほしい」と思うのです。
この”コンフリクト“が、PEファンドへのLP投資家が、そのGPが上場することを一般的には嫌がる理由の一つです。
(かといって、KKRやブラックストーンのように経営側やオーナー側の交渉力が圧倒的に強まると、アドバイザリーボードミーティングでLP投資家が意義を唱える余地もなくなるのですが。)
2.創業パートナーがエグジットして大儲けすると、たいていハングリー精神が無くなる
次に挙げられる”PEファンドの上場が既存LPに嫌がられる理由”が、投資先ファンドのパートナーが上場などを通じて巨額の収入を手にすると、そのファンドでリターンを出すことに必死になる金銭的理由がなくなり、「そのファンドで金儲けするぞ」という目的の優先順位が落ちてしまうためです。
実際に、一人で数十億、数百億とキャリーで手にしたPEファンドのパートナーは、総じて帰宅時間が早くなります。
勤務中もディールソーシングより、政府の諮問機関やら、大学での非常勤講師やら、大企業の社外取締役やらと、「どう見ても本業からかけ離れた、ノンコアな時間」の比率が圧倒的に増えがちです。
「パートナーはパートナーでも、六本木一丁目、ANAホテルの迎えにある、ゴルフパートナーだよ!」と陰口を叩かれるくらい、ゴルフばっかりやっている人もなきにしもあらずです。
以上のように、✔当該ファンドのステークホルダーが増え、✔またそれぞれのベスト・インタレストが異なる投資家同士の葛藤が生じ、✔おまけにエグジットしたパートナーが”一丁上がって”ハングリー精神が無くなることが、PEファンドの上場がLP投資家に”一般的には嫌われる”最大の理由なのです。