
ESGバリューアップの代表的事例はほぼない
どこのプライベートエクイティファンドも突如ESG,ESGと騒ぎだしています。インパクト投資で社会にポジティブな価値をなどと言い出す所が増えていますが、代表的なESGバリューアップ事例はあるのでしょうか?
つまり、投資先のカーボンニュートラルを進め、女性割合を増やし、従業員エンゲージメントを高め、あらゆる差別をなくすことによって、投資先のバリューアップを図った事例の有無ですが、結論から申し上げますと、残念ながらまだありません。
「ありません」というのは強いステートメントですが、少なくとも日本の主要バイアウトファンドに関し、2021年11月時点でそのようなポートフォリオ事例は見られないということです。
その理由ですが、まず第一に数年前までLP側が、特にESG対応を強く求めてこなかったことが挙げられます。ただ、某銀行系から独立した大手国内バイアウトファンドなどは初めて海外の機関投資家から資金調達した時に、ESG投資対応を聞かれ、PRIにサインしたという経緯があります。
そして今後はESG対応を求めるLPが増えてくるであろうことから、各ファンドマネジャーがLPマーケティングで語れるような「ESGバリューアップ実例」をつくるために、躍起になっているとも言えるでしょう。
ESGウォッシュファンドは、LP投資家から厳罰を受ける運命に
実際にESG対応を冠したファンドレイズをしておきながら、投資先の中身は従来の投資戦略とほぼ同じであったというESGウォッシュファンドも少なくありません。ドイツ銀行グループが本件に関し調査を受けて株価が一気に下がりましたが、今後は「単なるESGウォッシュファンド」と、長期的に海外機関投資家からも評価してもらえる「シンESGファンド」に分化していくとも言えるでしょう。
なおかの有名なフィリップコトラー教授が2021年10月のフォーラムで「今後の5年間を、過去5年間と同じような金儲けの仕方をしていく企業は滅亡の道をたどる」といった内容の発言をされていましたが、プライベートエクイティファンドのESG対応に関しても、同様のことが言えるでしょう。
プライベートエクイティによるESG対応は、投資先のバリューアップへの効果というより、ファンドレイズ対策としての色彩が強いのです。